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交通事故の知恵袋

自賠責の後遺障害等級以上の後遺障害等級又は後遺障害等級に対応する以上の労働能力喪失率を認めた事例

-はじめに

 

自賠責において,交通事故により負った障害について,一定の後遺障害等級が認められた場合,当該等級に応じた労働能力喪失率に基づいて,損害項目のうちの一つである逸失利益が算定されます。

 

交通事故により複数の部位に後遺障害を負った場合,各後遺障害の等級によっては,自賠責の実務上,「併合」という処理がなされ,原則として,以下のルールに基づき,後遺障害等級が繰り上げられます(例外等については,別途解説することとし,今回は割愛いたします)。

 

① 第5級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、最も重い等級のランクを3つアップさせる

② 第8級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、最も重い等級のランクを2つアップさせる

③ 第13級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、最も重い等級のランクを1つアップさせる

④ 14級の後遺障害が2つ以上ある場合は、いくつ障害があっても14級

 

ところが,実際には,これらのルールは適用されないものの,多数の部位に後遺障害が残存しており,現実の就労能力に大きな支障が生じている,という場合がしばしばあります。そのような場合に,形式的に自賠責のルールにしたがった後遺障害等級しか認めず,同等級に応じた労働能力喪失率しか認められないということになると,あまりにも被害者に酷となります。

 

そのため,裁判例においては,以下に紹介するものをはじめ,自賠責のルールを形式的に当てはめるのではなく,被害者に生じている後遺障害の全体的な状況及び被害者の就労状況に生じているであろう支障を考慮して,逸失利益の算定及び後遺障害慰謝料の算定を行っているものがあります。

 

-仙台地判平成24・3・27自保ジャーナル1883号59頁

 

男性会社員(症状固定時27歳)が,交通事故により,左肘関節の機能障害(12級6号),右手指の関節機能障害(11級9号),右足関節の機能障害(12級7号),右足指関節の機能障害(11級10号),右下肢短縮障害(13級9号),左手の痺れ等(14級10号),左下肢の醜状障害(14級5号),右下肢の醜状障害(12級相当),PTSD(14級10号)の障害を負った事案(併合9級)について,裁判所は,

 

「 最重度である第10級を1級繰り上げた第9級相当の労働能力喪失率で あるとして35パーセントとするというのは,当裁判所は相当でないと判断する。

 

なぜならば,そのような繰上げでは,……右下肢の後遺障害のみで第9級相当と評価されるのに,原告は,そのような右下肢の後遺障害のほか左上肢(前記第2の1(5)のアの左肘関節機能障害。第12級6号),右上肢(前記第2の1(5)のイの右手指関節機能障害。第11級9号)及び左下肢(前記第2の1(5)のウの左膝関節の機能障害。等級は非該当であるも,可動域制限は認められる。)と,要するに四肢に後遺障害があるのである。これをも第9級相当の労働能力喪失率であるとして35パーセントとするというのでは,右下肢にのみ後遺障害があるものとそれに加えて四肢に後遺障害があるものの労働能力喪失を同じく評価するということになるが,そのような結論は常識的に理解しがたいものである(このような問題意識は,原告の甲27にも顕れているが,これには酌むべき点がある。)。

そうすると,原告の後遺障害については,あくまで自賠責保険の後遺障害等級認定としては併合第9級と扱うほかないとしても,それによる労働能力喪失率としては,その等級認定の結論を考慮しつつも,相対的にそれより高い適切なところを別に認定すべきであって,当裁判所は,原告の後遺障害(前記第2の1(5)及びPTSD)を総合考慮して,原告は45パーセントの労働能力を喪失したものと認めるのが相当と判断する。」

 

として,45%の労働能力喪失があることを前提に逸失利益を算定するとともに,後遺障害慰謝料については,9級の場合の相場である金690万円よりも140万円増額した金830万円を認めています。

 

 

-福井地判平成25・12・27交民46巻6号1654頁

 

男性土木作業員(症状固定時59歳)が,交通事故により,神経系統の機能又は精神障害(7級相当),胸腹部臓器の障害(7級5号),脊柱運動障害(8級2号),視力障害(8級1号),聴力障害(9級9号),外貌醜状(12級14号)の障害を負った事案について,裁判所は,

 

障害が多方面にわたり,外貌醜状を除くいずれもが労働能力に深刻な影響を与えるものであり,これらの各障害を抱えた原告の労働能力は,そのすべてが失われているとはいえないものの,9割以上が失われたものとみるのが相当である。原告の後遺障害については通常の併合基準を適用すべきものではなく,その程度は総合すると等級表4級に相当するとみるのが相当である。」

 

として,自賠責の基準であれば併合5級となる事案において,4級の後遺障害を認定しつつ,労働能力喪失率については,労災及び自賠責保険実務において等級表4級の労働能力喪失割合が92パーセントと取り扱われていること,障害の部位,程度,原告の職業を勘案すると,原告はその労働能力の92パーセントを失ったと認められる。としました。

 

また,慰謝料については,原告の後遺障害の部位,内容,程度に照らすと後遺障害慰謝料は1800万円とするのが相当である。」として,4級の場合の後遺障害慰謝料金額の相場である金1670万円よりも金130万円増額した金額を後遺障害慰謝料として認めています。

 

-東京地判平成10・7・10交民31巻4号1070頁(甲101)

 

タクシー運転手の男性(症状固定時50歳)が,交通事故により,左眼球の著しい調節機能障害又は運動障害(12級1号),両眼視力0.6以下(9級1号),左下肢短縮(13級9号),手術後疼痛(14級10号),左足関節運動制限(12級7号)の後遺障害を負った事案(併合7級)において,裁判所は,

 

後遺障害による逸失利益は,別表に定められた労働能力喪失率をある程度基準として尊重して算定されるべきであるが,最終的には個々人の具体的状況に応じて算定されるべきである。 原告の場合,前述したように,左眼は視力は失っていないものの,眼瞼の下垂及び下垂を矯正しても複視が問題となるため,機能的には左眼を使ってものを見ることはなく(原告本人,甲第二四号証,第二五号証),足についても,杖をついてようやく歩行ができる程度で,歩行速度も極めて低速であり(原告本人,甲第五五号証,第五八号証),当面就労は困難なことはもとより,リハビリを経ても就労するまでになるには相当長期間を要し,その際も相当限定的な内容の仕事しかできないものと推認される(甲第二五号証,第二八号証,第五二号証,第五五号証,原告本人等)。 これらの点に,原告がタクシーの運転手として働いていたことをも考慮すると,視覚障害の点は重大な労働能力喪失につながるものと言わざるを得ず,歩行障害についてはリハビリによる改善の可能性が認められるとは言っても,労働能力喪失率は65パーセントを下回らないものと認められ,その喪失期間も通常の就労可能年数(67歳)までと認めるのが相当である。」

 

として,後遺障害による就労への具体的な支障及びタクシー運転手という職業における視覚障害が与える影響を考慮し,自賠責基準における7級の労働能力喪失率である56パーセントよりも大きい65パーセントの労働能力喪失率を認めています。

 

-おわりに

 

以上の通り,裁判例においては,自賠責上の後遺障害等級に形式的にあてはめるのではなく,後遺障害の全体的な状況及び被害者の就労状況に生じているであろう支障を考慮して,逸失利益の算定及び後遺障害慰謝料の算定を行っているものがあります。したがって,実際の訴訟においても,被害者の負った後遺障害による全体的な影響及び実際の就労状況において生じている支障を,しっかりと主張立証していく必要があります。

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