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後遺障害1級の「常に介護を要するもの」の意味

高次脳機能障害により後遺障害の1級の認定を受けるには,「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」である必要があるとされています。そして,その,「常に介護を要するもの」とは,「重篤な高次脳機能障害のため,食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を有するもの」と考えられています。

 

しかし。ここでの,「常時介護」というのは,食事や入浴等の「全て」について介護の必要がある場合に限られるものではなく,食事や入浴等の作業の「一部」について常に介護が必要な場合も含むとされていますし,また,食事・入浴・用便・更衣等のいずれか一つは自分でできるという場合でも,その内複数の作業について常時介護が必要な場合であれば後遺障害等級が1級に該当する場合もあるとされています。

 

この点について,東京地裁平成16年6月29日(交民37巻3号838頁)は,以下のように判示しています。

 

「原告Aには,記憶障害,認知障害,人格変化等の重度の高次脳機能障害が認められるが,嗅覚障害,半盲,四肢麻痺などの神経症状が,さらにその障害を複雑, 重症化しており,その結果,朝起床時から夜就寝時までの間,日常生活を円満に行うためには,常に他人が介護,看視,声掛けをすることが必要な状況となって いる。したがって,後遺障害等級1級3号に該当し,常時介護を要するものと認められる。
そして,重度の高次脳機能障害の場合,前記原告ら主張のとおり,日々変化し予想もしない問題行動や突発的な病気を起こすおそれがあることから,常時,看視と声掛けが必要であり,単に定期的に見回りに来るという程度の介護では足りないというべきである。
(3)これに対し,被告らは,原告Aについては常時介護は必要でなく,随時介護で足りる旨主張し,これに沿う証拠(医師の意見書等)がある。
しかし,これらの意見書等を仔細に検討すると,直接原告Aを診察した者によるものではないこと,高次脳機能障害に対する理解が必ずしも十分でない ものであったり,てんかん発作の危険性や常時投薬が欠かせないことなどへの配慮が足りないものであること,また,前記ビデオテープによれば,原告Aは身体 的には大柄であり,食事や排泄,衣類の着脱などを促されればある程度でき,一見自立する能力があるかのように見える部分があるものの,証拠(甲 31,36,37,原告C本人)に照らして,それは介護者の看視と声掛け(次々となされる指示,促し)によって,かろうじて行うことができるものであると いうべきであること,さらに,前記易興奮性,易怒性等の人格変化により,介護に重い負担がかかるものと考えられること等の事情を総合して判断すると,被告 らの主張に沿う証拠は採用できないし,他に前記認定を覆すに足りる証拠もない。」

 

つまり,上記東京地裁は,文字通り,「常時介護している」ということは必要なく,「常時介護」という概念を柔軟に解釈し,食事や排泄や衣類の着脱などをある程度自分でできるケースでも,看視と声掛けが常に必要であることや,その他の介護の負担等も総合考慮し,後遺障害の1級に該当すると認めたものなのです。

 

後遺障害の等級の基準については,以上の通り,文字面を形式的に当てはめるのではなく,過去の判例にも照らして実質的に検討する必要があります。この点は,弁護士としての腕の見せ所と言っても良いところと考えられます。

 

弁護士 牧野誠司

 

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