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交通事故の知恵袋

評価損の計算方法について

■ポイント


1.評価損の計算方法としては、修理費の○パーセントという金額を損害額とする①修理費基準法を採用する裁判例が最も多く、次いで、初めて登録した年度からの経過年数、事故車の種類・グレード、修理費用等の諸要素を総合勘案して損害を算出する②総合勘案基準法を採用する裁判例が多い。


2.裁判例が採用する具体的基準としては、修理費の10パーセント~50パーセント以上と幅が大きい。


3.統計的には修理費の30パーセント程度とする裁判例が多い。


4.初年度登録から事故発生までの期間が短い方が高い割合が出る傾向にあるものの、当該要素のみで必ず割合が高くなるとはいえない。

 

第1 はじめに

 

前稿「評価損について」では、車両が損傷を受けた場合の評価損(格落ち損)について解説を致しました。本稿では、評価損が認められる場合、どのように計算されるのか、という点について見ていきたいと思います。

 

第2 裁判例等による考え方

 

1.評価方法


裁判例に現れる評価損の算定方法には、次のような方法があると言われています(「裁判例、学説にみる交通事故 物的損害 評価損 第2集-3」保険毎日新聞社 21頁)。

 

① 修理費基準法

② 総合勘案基準法

③ 財団法人日本自動車査定協会査定基準法

④ 売却金額基準法

⑤ 時価基準法

 

この中でも、修理費の○パーセントという金額を損害額とする①修理費基準法を採用する裁判例が最も多く、次いで、初めて登録した年度からの経過年数、事故車の種類・グレード、修理費用等の諸要素を総合勘案して損害を算出する②総合勘案基準法を採用する裁判例が続き、多くの事例がこのいずれかの方法で計算をしているようです。

 

2.具体的基準

 

修理費基準や総合勘案基準を採用するとして、どの程度の割合で認められるかが問題となりますが、具体的な裁判例では、10パーセントから50パーセント以上のものまで幅広く存在しており、かつ、統一的な基準を示す裁判例はなく、具体的にどのような要素が存在すれば具体的基準が高くなるのか、一般論導くことは困難です。

 

例えば、修理費の10パーセントを評価損として認めた事例としては以下の事例がありますが、特に平成22年7月9日名古屋地方裁判所判決の事例では、感覚的には、むしろ、もう少し割合が大きくてもいいのではないかとすら思える要素も存在しており、判決前に正確な割合を判断する難しさを物語っています。

 

■平成22年7月9日/名古屋地方裁判所/判決/平成20年(ワ)1041号[交通事故民事裁判例集43巻4号848頁]

 

「交通事故により損傷した被害車(アルファードGのMS)につき、被害車は、本件事故時において初年度登録から約3年半が経過しているものの、時価が233万5000円とかなり高価であること、本件事故による損傷が基本的構造部分にも及ぶほど大きいこと、修理費用も192万7936円と高額であることから、本件事故による損傷のため修理代の約1割の評価損が生じたと認める」

 

■平成8年1月31日/東京地方裁判所/判決/平成6年(ワ)25687号[交通事故民事裁判例集29巻1号188頁]

 

「被害車の初年度登録年月が本件事故の20か月前で、事故まで2万4260キロメートルの距離を走行しており、購入して間もない中古車とは異なり、使用上の価値のみならず、相当程度経済的価値も既に費消されていると考えられること、下取りする等によって経済的価値(=市場価格)が具体化・現実化する予定が認められず、今後さらに使用上の価値が費消されると予想されるところ、そうなれば、被害車の市場価格そのものが修復歴の存在如何にかかわらず相当程度低くなると見込まれること、エンジン等自動車の中枢部分の状態は良好であることからすると、原状回復したものの、修理したことによる現在価格の減額分の評価に当たっては、控え目に算定するのが相当であり、修理費の10パーセントをもって損害として認めるのが相当である。」

 

一方、修理費の50パーセントを評価損とした事例には次の事例があり、登録直後の事故であったことや、修理をしても機能的に回復ができない可能性があることがポイントとなっているようです。

 

■平成24年10月29日/横浜地方裁判所/第6民事部ろ係/判決/平成23年(ワ)1769号[自保ジャーナル1887号140頁]

 

「事故に遭ったのは、納車から1週間にも満たない頃だったことになる。損害賠償として買換えが認められない・・・とはいえ、このように新車として購入後間もない比較的高額の車両の評価損(財産的価値の下落)は、通常よりも大きいと考えられ、少なくとも修理代金の5割とするのが相当である(横浜地方裁判所平成17年11月17日判決もほぼ同旨である。)。」

 

■平成5年11月30日/大津地方裁判所/判決/平成4年(ワ)314号[交通事故民事裁判例集26巻6号1481頁]

「被害車両の修復にはフレームの取り替えまたは修正を行い、ドアから後ろの殆どの部分を取り替える必要があること、・・・フレームを全部取り替えても走行中に支障が出る可能性が50パーセント程度見込まれること、また走行中の騒音、風切り音が大きくなり、ハンドルが振れたり、タイヤの走行具合も悪くなる可能性も考えられること・・・右事実から、評価損を修理費の50パーセントとみるのが相当」である。

 

以上のとおり、割合が高くなる要素は感覚的には掴みうるところではありますが、上述の50パーセントの事例が、なぜ、30パーセントや40パーセントではなかったのか、という点を明らかにすること困難であり、やはり、判決前に正確な割合を判断する難しさを物語っています。

 

3.平均的割合

 

以上のとおり、事案ごとに結論の差が大きいことから、割合を正確に予想することは非常に困難ではありますが、結論としては、20パーセント~39パーセントの間に収まっている裁判例が多くみられるという統計があり(「裁判例、学説にみる交通事故 物的損害 評価損 第2集-3」保険毎日新聞社 21頁)、これを捉えて、評価損は平均的には修理費の30パーセント程度と言われることがあります。

 

もっとも、平均的割合は、あくまでも、統計的な目安に過ぎないため、安易な判断は禁物です。

 

以上

(弁護士 武田雄司)

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