【交通事故法務の基礎知識⑦】自賠責保険と任意保険
交通事故に関して,「自賠責保険」や「任意保険」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないかと思います。
今回は,この「自賠責保険」制度の概要と「任意保険」について,解説させていただきたいと思います。
1 「自賠責保険」・「任意保険」とは
「自賠責保険」とは,正式名称を「自動車損害賠償責任保険」と言い,被害者に対する最低限度の保障を実現するために,原動機付自転車を含む全ての自動車に加入が義務付けられた保険のことです(自動車損害賠償保障法(自賠法)5条により,自賠責保険又は自賠責共済に加入していない自動車を運行させることは禁止されているため,「強制保険」と言われることもあります。)。
他方,いわゆる「任意保険」というのは,各保険会社が,それぞれ保険商品として提供している保険のことであり,自賠責保険と異なり,加入が義務付けられるものではないことから,「任意保険」と言われています。
2 「自賠責保険」・「任意保険」の保障内容
(1)自賠責保険の保障内容
自賠責保険又は自賠責共済においては,契約自動車の保有者が自賠法3条に基づく損害賠償責任を負う場合,つまり,交通事故によって,「他人の生命又は身体」を害した場合に限って,損害賠償額の支払いが行われます。
そのため,自賠責保険又は自賠責共済においては,被害者の生命又は身体に関する損害(人損)のみが支払の対象となり,自動車の修理費等の損害(物損)については,一切支払の対象となりません。
また,自賠責保険又は自賠責共済においては,法律に定められた支払基準に従って(自賠法16条の3),支払限度額の範囲内で(自賠法13条),保険金又は損害賠償額の支払いが行われます。
つまり,自賠責保険又は自賠責共済においては,被害者1名に対して,傷害に関する損害(治療関係費,休業損害,入通院慰謝料等)については120万円,後遺障害に関する損害(逸失利益,慰謝料)については,その程度(後遺障害等級)に応じて75万円から4000万円,死亡に関する損害(逸失利益,慰謝料等)については3000万円と定められております。
※この通り,自賠責保険の保障内容は,被害者の損害を最低限保障するという制度趣旨の下,相当限定的なものとなっています。そのため,交通事故の加害者が任意保険に加入している場合には,加害者が加入している任意保険の保険会社に対し,損害賠償の支払を請求するのが一般です(もっとも,被害者に過失がある場合など,事案によっては,自賠責保険に対して請求した方が良いケースもあります)。
そして,被害者が,自賠責保険又は自賠責共済の支払を請求する場合,所定の請求用紙に必要事項を記入し,必要書類(交通事故証明,診断書,診療報酬明細書等)を添付して,自賠責保険会社に対して,支払を請求することとなります(いわゆる「被害者請求」(自賠法16条1項))。なお,加害者が被害者に対して交通事故にかかる損害賠償の支払を行った場合,自賠責保険会社に対して保険金の支払を請求することができます(いわゆる「加害者請求」(自賠法15条)。
そして,自賠責保険会社は,上記の請求に対して,法律に定められた支払基準(自賠法16条の3)に従って,支払を行いますが,自賠責保険会社からの支払いに関して不服がある場合(例えば,被害者が請求しているよりも低い後遺障害等級が認定された場合など),自賠責保険会社に対して,異議の申し立てをすることができます。
(2)任意保険の保障内容
他方,任意保険の保障内容は,各保険会社の提供している保険商品の内容により千差万別です。
任意保険に加入されている方は,どのような事故が保障対象となるのか,損害賠償額がどこまで支払われるのか等について,一度,ご自分の加入されている任意保険の内容をご確認されてみてはいかがでしょうか。
弁護士 野田 俊之