判決結果と自賠責保険

Q 自賠責保険の後遺障害認定申請をしたのですが,結果に不満があったので,示談はまとまらず,加害者を相手に訴訟をしたところ,当方の言い分をかなり認める有利な判決をもらいました。このような場合に,自賠責保険から追加で支払いを受けることができるのでしょうか。

 

-損害賠償額の算定と自賠責保険の等級認定

 

自賠責保険における後遺障害の等級認定は,自賠責保険金の支払いの可否及び限度額を判定するためのものですので,訴訟において裁判所が被害者の損害をどのような判断方法で認定してもよいですし,自賠責保険手続で認定された等級と異なる認定をしても何ら問題はありません。

 

自動車損害賠償保障法(以下,「自賠法」といいます。)の改正により,平成14年4月1日以降発生した事故については,自賠法16条の3に基づいて定められた「支払基準」に従った支払いを行う義務が自賠責保険会社に課せられましたが,最判平成18年3月30日判時1928号36頁では,被害者や被保険者が自賠責保険に対して損害賠償額(同法16条)や保険金(同法15条)を訴訟で請求する場合には,「支払基準」により算出される金額に限定されることなく,裁判所は適正な損害額の認定をして支払いを命じられるとの判断を下しました。

 

当該判決は,交通事故の当事者間における損害賠償訴訟の判決が出た場合のことを判示したものではありませんが,「支払基準」が自賠責保険会社の民事的な法的支払義務の内容を決定するものではないことを前提とするものです。

 

そのため,現在の自賠責保険の実務では,当事者間における損害賠償訴訟の判決に基づいた追加払いの請求が行われると,当該請求の内容を検討し,その内容が適切なものであれば,判決を尊重して追加払いをする扱いがとられているようです。

 

-相手方の任意保険がある場合の手続

 

相手方が任意保険に加入している場合には,通常,当該任意保険会社は,当事者間における損害賠償訴訟で認容された金額について,支払いに応じることから,上記Qのような問題はあまり生じません。残るは,加害者側が,自賠責保険会社等から,判決で認定された内容に従い,自賠責保険金の追加払いを受けられるかどうかの問題となります。

 

-任意保険が関与しない場合

 

この場合,最近の実務の取扱いでは,当事者が争点について立証を尽くした結果であれば,その結果を尊重した支払いが行われる傾向にあります。他方で,欠席判決,あるいは,形式的には争われていても,大した医学的立証が行われていないような場合は,判決に基づいた追加払いを拒絶されるおそれもあります。

 

自賠責保険側が,当事者間における損害賠償訴訟の判決結果に従った支払いに応じないおそれがある場合には,自賠責保険会社等に対して,加害者とともに共同被告として訴えを提起しておく必要があります。被告(加害者)の立場からは,自賠責保険会社に対して訴訟告知(※)をしておくことが考えられます。そうすれば,被告は,敗訴した場合に,自賠責保険の被保険者として,保険金請求権を行使できることになるからです。

 

※訴訟告知

民事訴訟の係属中、当事者がその訴訟に参加することができる第三者に対し、法定の方式によりその訴訟係属の事実を通知することをいいます。当該告知により,自賠責保険会社が訴訟に参加しなかった場合でも,当該保険会社に対し,判決の効力(参加的効力といいます)が及ぶこととなります。