慰謝料の増額事由②

以前の知恵袋(https://www.fushimisogo.jp/wordpress/accident/wisdom/?ID=785)で,(1)被害者の過失が重大であったり自己態様が悪質な場合,(2)加害者の事故後の態度が著しく不誠実な場合には,慰謝料の増額が認められることがあることを紹介しましたが,関連する裁判例を追加で紹介いたします。

 

以前にも述べた通り,①あくまで特殊事情が主張・「立証」される必要があり,立証すべき責任は「被害者」にあること,②その特殊事情をどれだけ考慮して,どれほど増額するかは,裁判所の裁量的な判断に委ねられており,増額が認められない場合もあることには注意が必要です。

 

1 ひき逃げ事案についての裁判例

 

(1)大阪地判平成25年11月14日

 

自動車専用道路上で,登板車線を直進した被告運転車両と,走行車線から登板車線に進路変更した原告運転車両(大型二輪車)が衝突した事故において,左肩関節の可動域制限等により10級相当の後遺障害を負った原告が,「被告は事故後本件現場から逃走しており,医師からも救急搬送が10分遅れていれば命はなかったといわれるほどの重症を負っていた状態の原告を放置したことは重大である。原告の精神的苦痛は大きく,慰謝料は増額されるべきである」旨の主張を行った事案です。

これに対し,裁判所は,被告の救護・報告義務違反を認定し,入通院慰謝料金220万円を認めました。原告は,平成20年11月2日から23日まで病院に入院し,同月24日から平成22年2月18日までの間に120日間同病院に通院しているため,一般的な裁判基準によれば,金179万1000円となるため,およそ金40万円の増額が認められたこととなります。なお,裁判所は,後遺障害慰謝料についても,被告の救護義務違反の点も考慮し,10級の一般的な基準である金530万円の慰謝料から金50万円増額した,金580万円を認めています。

 

(2)東京地裁八王子支判平成15年4月24日

 

交差点における普通乗用車(加害車)と自転車(被害車)との衝突事故により,被害者である原告が頸椎捻挫,左膝打撲の傷害を負った事案で,原告は,加害者である被告が救護措置を講じなかったことについての慰謝料として,通院慰謝料とは別個に,金50万円の慰謝料が認められるべきと主張した事案です。

 

裁判所は,被告の救護措置義務違反は,事故発生の原因等と相まって,原告の通院慰謝料の増額事由となるものと扱うのが相当であるとし,救護義務違反の事実に加え,「睡眠不足により眠気を覚え,前方注視が困難な状態に陥った時点で,直ちに運転を中止すべき注意義務があるのにこれを怠り,漫然と上記状態のまま運転を継続した過失並びにその結果,前方を注視し,信号機に従って進行すべき注意義務があるのにこれを怠り,漫然と進行した」との事故発生原因等を総合考慮して,原告の通院慰謝料を140万円としました。原告は,平成12年3月18日から同年9月18日まで通院治療を受けたこと(通院実日数70日)から,通院慰謝料は,一般的な裁判基準によれば金117万3333円となるため,約金23万円の増額が認められたことになります。

 

2 加害者が事故後に不誠実な態度を取った事案についての裁判例

 

(1)千葉地裁松戸支判決平成11年5月25日

 

被害車両が交差点で赤信号のため停車していたところ,後方を走行していた加害車両が,速度を落とさないまま進行したため,被害車両に衝突し,そのため,被害車両が,前方に停車中の車両に衝突したという事故で,同事故により,被害者である原告が,頸部捻挫,腰部捻挫,右膝部打撲,右肩部打撲の傷害を受けた事案です。

裁判所は,被告は,事故の翌日に原告に電話を入れており,また,親族や保険会社等を通じて原告の治療費を支払うなどの対応をし,本件事故(業務上過失傷害罪)で罰金10万円に処せられているという事実を認定した上で,「しかし,被告自身が本件事故後に原告に直接面会して謝罪をしたり,本訴の和解手続期日に出頭して原告に陳謝するようなことはなかった。被告は,結局,本訴において陳述書を提出しただけで,本訴の期日には一度も出頭しなかった。被告には本件事故後の原告に対する対応において誠意に欠ける点があった。」として,原告の通院慰謝料以外の精神的苦痛に対する慰謝料として,金10万円を認めました。

 

(2)千葉地判平成16年3月24日

 

被告が,酒気帯びではないものの本件事故直前に500ミリリットルの缶ビールを3缶飲んだ状態で運転しており,また,本件事故現場は,時速40キロメートルに速度制限され,かつ道路標示で追越しのための右側部分はみ出し通行禁止場所と指定されていたが,被告は時速80ロメートルで追越しを開始し,センターラインを越えて走行して本件事故を惹起したという事案です。

 

本件事故により,右大腿骨骨折及び右肘頭開放骨折の傷害を負った原告が,本件事故における被告の上記具体的関与や,現在に至るまで,原告に対して自らは慰謝の措置を講じていないことからすると,慰謝料増額事由があるとして,傷害(入院約3か月,通院約13か月)慰謝料として金240万円,後遺障害慰謝料(11級)として金500万円が相当であると主張したのに対し,被告は,事故発生に関する運転状況は,故意に近い重過失あるいは事故に至る経過が被害者に大きな恐怖感を与えるような場合には,慰謝料の増額事由になるが,本件事故のように被告が重過失というだけでは,増額事由とならない。また,七か月間入院して動けなかった被告に代わって父親が見舞いに赴き,被告加入の任意保険会社により原告の治療費負担等を誠実に行っていると反論しました。

 

裁判所は,原告が本件事故の受傷によって,その治療のために前記各病院に入通院した事情に,前記事故態様及び本件に現れた原告の受傷内容や治療経過,後遺障害その他の事情を考慮し,特に被告に重過失があるといえる本件事故における具体的な関与の点,被告が現在に至るまで自ら慰謝の措置を講じていないなどの不誠実な態度を慰謝料の増額事由として斟酌すると,本件事故による傷害の慰謝料は金220万円後遺障害の慰謝料は金450万円が相当であるとしました。

 

同事案は,入院約3か月,通院約13か月(実通院日数61日)の事案であり,通院慰謝料は一般的な裁判基準によれば約 金163万円であるため,約金57万円の増額がなされたこととなります。また,後遺障害慰謝料については,一般的な基準である金400万円よりも金50万円増額されたこととなります。