駐車車両の責任

-はじめに

 

夜間をバイクで走行中に,道路上に駐車されていた車にぶつかり怪我をしたような場合,駐車車両の所有者等に対して,責任を問うことはできるのでしょうか。「動いていないのだから,過失はない」とも思われますが,実際には,動いているかいないかにかかわらず,駐停車している車両であっても,駐車の態様が事故を引き起こす原因となっている場合には,責任が認められると考えられます。

 

-運行供用者責任(自賠法3条)

 

交通事故により怪我を負った被害者は,自賠法3条の「運行供用者」に対しては,相手方の過失を立証することなく,人身損害(物損は対象外)の賠償を請求することができます。ここで,「運行供用者」とは,車両の「運行」についての「運行支配」(自動車を運行時において管理・運営していること)と「運行利益」(自動車を運行することによって事実上の利益を得ること(経済的な利益だけでなく,広く社会生活上の利益を意味します))が認められる者と解されています。

 

ここで,自動車を運転しておらず,駐車しているのだから,「運行」とはいえないのではないかという点が問題になります。「運行」とは,「人又は物品を運送するとしないとにかかわらず,自動車を当該装置の用い方に従い用いること」(自賠法2条2項)と解されているところ,駐車それだけでは,「自動車を当該装置の用い方に従い用いている」とは言えません。「運行」に該当するかどうかは,走行との時間的・場所的関連性,近接性,駐車目的等を考慮して,前後の走行行為と一体とみなすことができるかどうかによって判断されることとなります。たとえば,翌朝に走行するつもりで,深夜に違法駐車をしていたという場合には,上記考慮要素から,「運行」に当たると解されます。

 

-一般不法行為責任

 

前述の運行供用者責任が認められず,自賠法上の責任は負わなくても,その駐車車両を管理する責任のある者は,何らかの過失があり,駐車車両が事故の一因となった場合には,民法上の不法行為責任を負うこととなります(暗く見通しが悪く,幅員も狭い道路上に,車道を大きく遮るような態様で自動車を放置した場合などはこれに当たるといえるでしょう)。この場合は,運行供用者責任の場合と異なり,被害者が,相手方の過失を立証する必要があります。

 

-過失相殺

 

このように,駐車車両の運行供用者や管理者に対し,損害賠償責任を追求しうるとしても,止まっていた車に自らぶつかってしまったことについて,被害者側の過失が問題とされる場面が多いと思われます。この場合,認定された被害者側の過失割合に応じて,請求できる金額も減額されてしまうことになります(過失相殺)。

 

駐車車両と衝突した車両の過失割合については,以下のような事情が考慮されるとされています。

 

①事故現場の状況

:高速道路か一般道路か,道路の形状,幅員,勾配,見通し,明るさ,利用状況などの道路状況,交通量,交通事情,天候,気象状況,時間帯等

②駐車車両の事情

:違法駐車か否か,指定禁止場所か法定禁止場所か,駐車の目的,駐車時間,駐車車両の大きさ,色,非常点滅灯・駐車灯・尾灯の点滅の有無等

③衝突車両の事情

:衝突車両の車種,速度,運転者の運転状況(飲酒・疲労・寝不足など),操作ミス・運転ミスの有無,前方注視義務違反の有無,スリップ痕,ブレーキ痕の有無・長さ等