オーストラリアビジネス法務(10)-取締役会について(その2)-
(本コラムでは、特段の断りがない限り、日系企業がオーストラリア進出の際によく用いる法人形態であるCompany Limited by shares(有限責任株式会社)で、かつProprietary company(非公開会社)を念頭においてお話します。)
前回のコラムでは,オーストラリア会社法の取締役会の権限などを検討しましたが,今回も引き続き,取締役会のことをお話します。
1 取締役会の招集について(Calling directors’ meetings)
オーストラリア会社法248C条では,取締役会は,各取締役が招集権限を持つとされており,招集しようとする取締役は,他の取締役に対し,個別に合理的な通知(reasonable notice)をすることとされています。
日本の会社法においても,取締役会は,各取締役が招集することとされていますので(日本の会社法第366条第1項本文),ここは日豪で同じといえます。
そして,この取締役会の招集権限を定めたオーストラリア会社法248C条は,いわゆるReplaceable rulesとされていますので,定款で変更することが可能です。
日本の会社法においても,「ただし,取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは,その取締役が招集する。」(日本の会社法第366条第1項但書)とされているため,ここも日豪で同じといえます。
2 technologyを用いた招集及び開催について(Use of technology)
日本の企業がオーストラリアの企業と合弁事業を行うような場合,取締役全員がオーストラリア国内に在住しているとは限りません。
その場合に,例えばテレビ会議システム等を用いて取締役会を開催することができるのでしょうか。
オーストラリア会社法248D条は,すべての取締役からの同意が得られたtechnologyを用いた取締役会の招集や開催を認めています。
したがって,全取締役の同意した技術(例えばテレビ会議システム)を用いた方法であれば,日本とオーストラリア2ヶ所を繋いで取締役会を開催することも可能といえます。
また,取締役は,取締役会の日より合理的な期間前である場合に限り,同意を撤回することができる,ともされています(オーストラリア会社法248D条)。
なお,このオーストラリア会社法248D条は,いわゆるReplaceable rulesと定められていませんので,定款によって変更することはできないと考えられます。
3 取締役会の決議について(Passing of directors’ resolutions)
最後に,取締役会の決議について見ていきます。
オーストラリア会社法第248条G(1)では,取締役会の決議は,議決権行使を行うことのできる取締役の過半数の賛成票をもって行われなければならない,とされています。
ここは,「取締役会の決議は,出席した(議決に加わることのできる)取締役の過半数をもって行う」旨定められている日本の会社法第369条1項と基本的に同じといえます。
そして,上記オーストラリア会社法第248条G(1)は,いわゆるReplaceable rulesとされているため,定款によって変更することが可能といえます。
日本の会社法においても,定款によって決議要件は変更可能と考えられていますが,ただそれは,必要賛成票数の要件を加重する方向で変更できるに過ぎず,それを緩和することはできない,とされている点(日本の会社法第369条1項),日豪では異なるといえますので注意が必要です。
そして,やや細かい議論ですが,オーストラリア会社法248条G(2)では,取締役会の議長は,必要な場合(通常は,賛成票と否定票が同数の場合でしょうか)には,自己が取締役の資格で行使した議決権に加えて,さらに1票(casting vote)を投じることができる,とされています。
これは,日本の会社法上の解釈では,一度,取締役として議決権を行使した議長が,再度,裁決権を行使することにより決議を成立させるのは,法定決議要件の緩和にほかならず認められない,とされていること(大阪地判昭和28・6・19下民4巻6号886頁)と異なるため,注意が必要です。
なお,このオーストラリア会社法248G条(2)もReplaceable rulesとされていますので,合弁会社の際には,定款でこのような規定を排除させることも可能と考えられます。
以上,今回も簡単ではありますが,取締役会に関するオーストラリア会社法の規定を検討・紹介しました。
本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。
弁護士 高橋 健