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オーストラリアビジネス法務(13)ー取締役の解任等ー

弁護士 髙橋健

(本コラムでは、特段の断りがない限り、日系企業がオーストラリア進出の際によく用いる法人形態であるCompany Limited by shares(有限責任株式会社)で、かつProprietary company(非公開会社)を念頭においてお話します。)

 

 

1.取締役の解任に関する会社法の規定

 

 

オーストラリアビジネス法務(8)では、オーストラリア会社法における取締役の選任に関する規定を簡単にご紹介しました。

 

 

今回は、取締役の解任について、オーストラリア会社法の規定を見てみましょう。

 

 

オーストラリア会社法203C条は、非公開会社に対し、次のような権限を与えています。

 

✓株主総会の決議によって、取締役を役員から解任すること(オーストラリア会社法203C条の(a))

 

✓株主総会の決議によって、代わりに、他の人物を新たな取締役に選任すること(同条(b))

 

 

このように、オーストラリア会社法では、取締役の解任は、株主総会の決議によって行われることとされています。

 

これは、日本の会社法第339条第1項において、取締役を含む役員は、株主総会の決議によって解任される、と定められていることと類似しているといえます。

 

 

2.オーストラリア会社法203C条はreplaceable ruleか

 

 

次に、このオーストラリア会社法203C条は、いわゆるreplaceable ruleかを確認しましょう。

 

オーストラリア会社法203C条のタイトルは、”Removal by members–proprietary companies (replaceable rule-see section 135)”となっており、そのため同条は、replaceable ruleであり、定款で別の定めを置くことが可能と考えられています。

 

 

もし合弁事業契約を行う場合において、この会社法203C条の規定と異なる解任手続きを定めたいと考える場合は、定款にその旨の規定を定めることが可能と考えられます。

 

 

3.取締役の解任に伴う問題ー取締役に任期はあるのか-

 

 

最後に1点、取締役の解任に伴う問題を補足します。

 

 

日本の会社法第339条第2項では、「前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。」と定められており、解任に正当な理由があるか否かによって、株式会社への損害賠償請求の可否が決まる仕組みが取られています。

 

 

実務的にも、任期途中で解任された取締役の方が、株式会社に対し、この日本の会社法第339条第2項に基づき、残任期分の役員報酬金などを損害賠償請求する事案は珍しくありません。

 

 

オーストラリア会社法は、どうでしょうか。

 

 

この点、オーストラリア会社法では、非公開会社の取締役の任期を定めた規定がありません。

 

 

そのため、合弁事業契約を締結する場合などには、定款に取締役の任期を定めることが多いと思われますが、合弁事業契約ではなく、シンプルに日系企業がオーストラリアに現地完全子会社を設立するような場合などでは、定款にそういった取締役の任期を定めていないケースもあります。

 

 

そのような任期の定めがない場合、「任期途中での解任」という概念が出てこないため、残任期の役員報酬などの賠償請求は、日本と比べると認められにくいようにも思われます。

 

 

実務的には、会社と取締役との間の個別の委任契約書の中で、そういった解任に伴う賠償請求等をどのように扱うのか(一切認めないのか等)等を定めておくことが一般的なようです。

 

 

以上、今回は、取締役の解任につき、オーストラリア会社法の規定を確認しました。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

【弁護士 髙橋 健】

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