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オーストラリアビジネス法務(14)-取締役の人数と会社の代表権-

弁護士 髙橋健

 

(本コラムでは、特段の断りがない限り、日系企業がオーストラリア進出の際によく用いる法人形態であるCompany Limited by shares(有限責任株式会社)で、かつProprietary company(非公開会社)を念頭においてお話します。)

 

 

1.取締役は1名選任すべきか?それとも2名以上選任すべきか?

 

 

合弁契約を検討する際、取締役の人数をどうするかも一つのトピックとなることがあります。

 

 

通常は、2社以上で合弁契約を行うのであるから、2名以上の取締役を選任することが多いですが、オーストラリア会社法上、非公開会社の取締役は1名でよいとされていることもあり(オーストラリア会社法201A条(1))、立ち上げ当初は、一先ず1名だけ取締役を選任しておこうか、と考えることもあり得ます。

 

 

特に、合弁契約ではなく、単純に日系企業が豪州に現地法人を立ち上げてビジネス展開するような場合であれば、「株式は100%日本法人側で保有しているから、いざとなれば取締役を解任できるし、まずは1名だけ選任しておこう」、「会社とその1名の取締役との間の契約において、取締役の権限を制約等しておけば、大丈夫だろう」という判断のもと、初期段階では、豪州現地在住の者1名のみを取締役に選任するケースも現実的にはあり得るかと思います。

 

 

しかしながら、結論としては、次の「2」で紹介するオーストラリア会社法の規定を踏まえると、基本的には、取締役は2名以上選任しておいたほうがよいと考えられます。

 

 

2.オーストラリア会社法における会社の代表権の規定

 

 

オーストラリア会社法128条(Entitlement to make assumptions)では、会社と取引を行う第三者は、同法第129条に該当する場面ではそこで記載された事項を事実と推定する(to make the assumptions)ことができる等定められています。

 

 

そして同法129条では、上記128条のもと、推定を働かせることができる事項がいくつか列挙されているのですが、その中で、同条(5)では、第三者は、オーストラリア会社法127条(1)に従ったサインがなされた外観を有しているドキュメントがある場合、そのドキュメントは、会社によって適法になされたものと推定することができる、とされています。

 

 

では、オーストラリア会社法127条(1)では、どのような方法が定められているのか、ですが、同条(1)では、主に3つのパターンが定められており(いずれもCommon sealが用いられていないことを前提としています)、会社は、それらのいずれかの方法によってドキュメントを有効に締結することができる、とされています。

 

そのうち、同条(1)(c)では、非公開会社の唯一の取締役がサインする方法が定められています(厳密には、非公開会社の唯一の取締役が、唯一の秘書役(secretary)という機関でもある場合に、当該取締役がサインする方法、とされています。)。

 

 

この規定によれば、1名のみ取締役が選任されており、その者が唯一の秘書役でもある場合、いくら社内規定や契約においてその取締役の権限を制約等していたとしても、その唯一の取締役がサインしたドキュメントは、対外的には法的に有効とされる危険があるといえます。

 

 

他方で、仮に取締役が2名以上選任されている場合は、取締役2名のサインがあってはじめて会社は有効にドキュメントを締結することができる、とされています(オーストラリア会社法127条(1)(a))。

 

 

したがって、このようなオーストラリア会社法における会社の代表権に関する規定に鑑みれば、取締役は2名以上選任しておくことが、会社にとっての予想外の取引を発生させないために効果的と考えられます。

 

 

なお、以上のように、オーストラリア会社法では、対外的な会社の代表権に関する規定を比較的詳細に定めていますが、それに加え、オーストラリアでは、コモンローの分野でindoor management ruleという判例法理が蓄積・形成されているようです。

 

そのため、個別具体的な事案において、当該取締役の行った(あるいはこれから行う)取引等の法的有効性を検討する場合は、豪州現地の専門家(弁護士)のアドバイスを受ける必要性が高いと考えられます。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

 

【弁護士 髙橋 健】

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