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オーストラリアビジネス法務(16)ーOfficerとはー

弁護士 髙橋健

 

(本コラムでは、特段の断りがない限り、日系企業がオーストラリア進出の際によく用いる法人形態であるCompany Limited by shares(有限責任株式会社)で、かつProprietary company(非公開会社)を念頭においてお話します。)

 

 

 

 

 

豪州会社法には、日本の会社法ではあまり馴染みのない”Officer(オフィサー)”という概念が定められています。

 

Officerは、役員などと訳されるため、日本の会社法の感覚では、取締役などのことを指すのか、とも考えられますが、豪州会社法でいうOfficerとはもう少し広い概念のようです。

 

 

会社におけるOfficerは、豪州会社法9条の定義規定で次のように定められています(以下の規定以外にも、会社が清算手続き等に入った場合のReceiverなどが、Officerとして定められていますが、ここでは省略します。)。

 

 

(a)会社の取締役又は秘書役

 

(b)ⅰ)会社の事業全体又は主要な部分(substantial part)に影響を与える決定を行ったり、その決定に参加する者

 

ⅱ)会社の財務状態(financial standing)に重要な影響を及ぼすことができる者

 

ⅲ)会社の取締役がその指示や要望にしたがって行動を起こす場合の、その指示や要望を出す者(専門家の立場で、または取締役もしくは会社と事業関係(business relationship)にある者の立場で、適切な職務遂行を行うべく、アドバイスをする者は含まれない。)

 

 

 

このように、豪州会社法は、かなりその者の実態をみてOfficerか否かを判断する構造を採用しているといえます。

 

 

特に、豪州会社法では、同じく第9条の定義規定で、会社法における取締役には、正式に選任された者のみならず、選任手続きがとられていないものの、事実上、取締役として行動する者(事実上の取締役)なども含まれるとされているので、そのこととも相まって、Officerに該当するか否かは、かなりの解釈論が含まれるものと考えられます。

 

 

そのため、このOfficerに該当するか否かの解釈論においては、多くの裁判例の蓄積があるようです(例えば、上記の(b)(ⅰ)のOfficerに該当するか否かに関して、Shafron v Australian Securities and Investments Commission(2012) 286 ALR612;88 ACSR 126 at [22]-[27])。

 

 

そして、このようなOfficerに該当すると、豪州会社法180条~183条等に規定された義務を負うことになるなど法的責任を伴うことになります(なお、この法的責任の内容(豪州会社法の規定)については、また別の機会に確認してみたいと思います)。

 

 

 

いずれにしても、Officerに該当するか否かは、会社法に定められた法的義務・責任が発生するか否かに繋がるものであるため重要な事項といえます。

 

そして、そのOfficer該当性の判断は、かなり解釈の余地を残すものであり、そこには過去の裁判例が多分に影響を与えているものと考えられるため、豪州弁護士等の専門家の意見を聞くことが肝要といえそうです。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

 

 

【弁護士 髙橋 健】

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