オーストラリアビジネス法務(18)-コロナとStand down-
1.オーストラリア法務におけるコロナの影響
世界規模で流行しているコロナの問題は、日本でも国内外の取引関係において重大な問題を生じさせています。
日系企業のオーストラリア法務も例外ではなく、日系企業とオーストラリア企業との間の取引(売買契約や業務委託契約など)や、オーストラリア現地法人における労務などで、コロナの影響が法的に多くの問題を生じさせています。
今回は、このうち、オーストラリアのFair Work Act 2009(日本でいう労働基準法のような法律)において、コロナの影響でオーストラリア現地法人を事業停止せざるを得ない場合の、現地従業員に対する給与支払いの要否につき、関連する条文等を確認できればと思います。
2.Fair Work Actの第524条について【Stand down】
今回の「コロナの影響によって休業した期間、使用者は、従業員に対し、その給与を支払う必要があるか」という問題に関して、通常、関係するといわれているFair Work Actの規定は、第524条です。
(1)どのような場合にStand down(休業)できるのか
まず、そもそも使用者は、どのような場合に適法にStand down(休業)をすることができるか、については、第524条(1)に定めが置かれています。
同条項では、まず本文にて、
『(1) An employer may, under this subsection, stand down an employee during a period in which the employee cannot usefully be employed because of one of the following circumstances:』
と定められています。
続いて、そこでいうthe following circumstancesの1つとして、(c)にて
『 (c) a stoppage of work for any cause for which the employer cannot reasonably be held responsible.』
という規定が設けられています。
今回のコロナの影響により、使用者がStand downしようとすれば、基本的には、この条項に該当することが認められる必要があるものと考えられます。
この点、同条項のいう、使用者側の責めに帰すべき事由によらずにStoppage of work(雇用・労働が停止する)となったといえる場合、については、判断に悩むことが多いと思われます。
日本国内でも、例えば、休業手当の支払いの要否を決する労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合」該当性判断が困難を伴うように、上記(c)の事由該当性判断には、ケースバイケースの判断を要します。
ここは、当然ながら、オーストラリア現地の専門家(弁護士等)の意見を聞くことが一番なのですが、中々気軽にそこまで聞けない場合も多いかと思います。
そのような場合には、例えば、Fair Work OMBUDSMANの公式サイトの案内などが参考になります。
本コラム作成時であれば、googleで『Coronavirus and Australian workplace laws』と検索すれば、上記OMBUDSMANの公式サイトの関連ページがヒットします。
そのページの『Standing down employees』という部分に、次のような記載があります。
Employers may be able to stand their employees down without pay during the coronavirus outbreak for a number of different reasons. These can include where:
・the business has closed because of an enforceable government direction relating to non-essential services (which means there is no work at all for employees to do even from another location)
・a large proportion of the workforce is in self-quarantine meaning the remaining employees can’t be usefully employed
・there’s a stoppage of work due to lack of supply for which the employer can’t be held responsible.
【以上、Fair Work OMBUDSMANの公式サイトの『Coronavirus and Australian workplace laws』のページより引用】
政府の強制的な指示によるビジネスのクローズの場合や、大半の従業員が自主的な隔離により出勤できず、そのため残りの従業員を有効に雇用することができないようなケース、さらには使用者の責めに帰すことができない事由によって、(材料等の)供給が受けられない事態となり、その結果、労働・雇用が停止するような場合があげられています。
ただ、これらもあくまで一例に過ぎず、最終的には、個々の判断が必要となりますが、Fair Work Actの考え方として参考になるかと思いますので、引用いたします。
なお、同じページには、他方で法的にStand downができない場合にStand downしてしまった場合には、従業員は、使用者に対し、未払い給与を請求できることになるので、注意が必要とされています。
(2)休業期間中、給与を支払わなくてよいか
上記(1)でご説明したような事情のもと、法的に休業(Stand down)が認められるケースでは、使用者は、従業員に対し、給与を支払わなくてよい、とされています。
根拠となるFair Work Actの条文は、以下の第524条(3)と通常考えられています。
『(3) If an employer stands down an employee during a period under subsection (1), the employer is not required to make payments to the employee for that period.』
以上、簡単ではありますが、今回のコロナ情勢の中で役立つ情報として、一般論の域をこえないもので恐縮ですが、上記の通り情報提供させて頂きます。
今回の未曾有の事態の中、オーストラリア法務の問題に直面している日系企業の皆様にとって、少しで有益な情報となれば幸いです。
本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。
【弁護士 髙橋 健】