オーストラリアビジネス法務(2)-Exclusive契約の落とし穴-
【オーストラリアビジネス法務(2)-Exclusive契約の落とし穴-】
1 Exclusive契約=インポーター側のビジネスチャンス?
あるワイン輸入会社が、昨今の日豪間のEPAによって関税が撤廃となったオーストラリアのバルクワインの輸入取引を増加させようと考えていました。
そうしたところ、これまで付き合いのあったオーストラリアの大手ワイナリーから、いわゆるExclusive契約の提案を受けました。
Exclusive契約とは、一般的には、メーカーが販売店に対し、ある地域(例えば日本。テリトリーと呼ばれます。)内での製品販売する権利を独占的に与える契約のことを言います。
つまり、あるワイナリーと日本国内をテリトリーとするExclusive契約を締結した販売店は、その契約対象となっているワイナリーのワインを、日本国内で独占的に扱うことができます(独り占めすることができます)。
これは、ワインインポーター側からすると、他の競業他社と差別化を図ることができ、大きなビジネスチャンスといえます。
しかし、Exclusive契約は、販売店側に有利なことばかりではありません。
以下では、「Exclusive」という言葉だけに惑わされて、ついしっかりと契約書を確認することなく契約してしまうことのないよう、Exclusive契約の注意点をご紹介します。
2 Exclusive契約=そのワイナリーの専属販売店?
まずExclusive契約に潜む注意点の1つとして、競合製品の取扱い制限があげられます。
ワイナリー側から考えてみましょう。
ワイナリーとしては、当然、自分のワインをできる限り広く日本国内に普及させてくれる販売店を探すはずです。
特に昨今のEPAによって、オーストラリアのバルクワインは、急激に輸入量を増加させています。そのような状況下で、ワイナリーと直接契約をしたがるインポーターは少なくないはずです。
そうすると、ワイナリー側としては、インポーターに対し、自社のワインを広く日本国内に広めてくれるよう強気な契約交渉を行ってくることが考えられ、その行きつく先の1つとして、競合製品の取扱い禁止を契約書に定めることがあり得ます。
つまり、そのインポーターは、契約を結ぶワイナリーの専属販売店のような状態となり、他のワインを一切扱えなくなることを契約書で謳うのです。
ワインを含む酒類インポート事業は、通常、世界各国の様々なメーカーの製品を取り扱うことが多く、1つのメーカーの製品だけを取り扱うだけでインポートビジネスを成り立たせることは非常に困難です。
そのため、上記のような「競合製品の取扱い禁止」(専属販売店)が契約内容に組み込まれることは、インポーター側からすると、予想外のビジネス障害となります。
3 競合製品取扱い制限に対する契約交渉術
通常、大手のワイナリーと直接契約を結ぶ場合、ワイナリー側から定型的な販売店契約書(Distribution Agreement)が送られてくることが多いのではないでしょうか。
そこには、しれっと上記のような競合製品の取扱いを制限するような条項が盛り込まれていることがあります。
特にExclusive契約の場合は、その可能性は高く、インポーター側としても、「まあ、そんなもんかな・・」と思って、ついついそのまま契約を結んでしまいがちです。
しかし、その契約条項の危険性は、上記「2」でご紹介した通りであり、将来の思わぬビジネス障害となりかねません。
そのため、まずはそのような条項を削除することを求めることなりますが、あまり強く言えない(Exclusive契約なので、この機会を逃したくない・・!)というインポーター側の事情もあろうかと思いますので、例えば「今回の販売店契約の締結前にすでに扱っている商品については、この限りではない」といった形で例外を設けたり、あるいは競合製品をオーストラリア(またはオーストラリアの特定の地域)産のワインに限定する(つまり、オーストラリア産以外のワインは取り扱ってよい)ような妥協案をもって交渉に臨むことも考えられます。
いずれにしても、「Exclusive契約!?」といって、盲目的に飛びつかぬよう、しっかりと契約内容を確認する必要があります。
当事務所では、このようなオーストラリアのワイナリー等と直接契約する際に必要となる販売店契約書のリーガルチェックにも積極的に取り組んでおります。この機会に一度、リーガルチェックを受けておきたいとのご要望があれば、是非お気軽にお声掛け下さい。
本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。
【弁護士 髙橋 健】