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オーストラリアビジネス法務(23)-The Modern Slavery Act 2018 (Cth) (Act) (3)-

弁護士 髙橋健

 

今回も、オーストラリアにおける「ビジネスと人権」に関連する法律である、オーストラリア連邦法のThe Modern Slavery Act(現代奴隷法)を取り上げたいと思います。

 

2022年2月7日付のABCニュースで、”Australian companies failing to prevent links to modern slavery, human rights groups warn“との見出しで現代奴隷法が取り上げられていました。

 

 

 

 

上記ABCの記事によれば、今般、オーストラリアのthe Human Rights Law Centreという団体が、いくつかの大学とともに、現代奴隷法が適用される企業の提出した報告書等の調査を行い、その結果、強制労働に繋がるサプライチェーンを有する多くの企業において、現代奴隷法にて求められる報告義務を怠る等の事実が明らかとなった旨の指摘がなされています。

 

今回の調査では、特にリスクが高いと知られている4つの産業分野(clothing from China, rubber gloves from Malaysia, seafood from China, and fresh produce from Australia)にフォーカスされています。

 

そしてABCの記事には、この間、ABCに寄せられた現代奴隷法に抵触すると考えられるエピソードが紹介されており、実態としては、現代奴隷法に基づき提出されている報告書で触れられていない事象がオーストラリア国内外のサプライチェーンにて発生している、との指摘がなされています。

 

 

またABCの記事によれば、オーストラリア政府は、2021年、今後5年間をかけて、$4.4 millionを用いて、現代奴隷とオーストラリアの関わりを調査する民間グループを支援する、と表明しており、今後、さらに現代奴隷法の運用の厳格化、さらにはその実効性を確保するための法改正も予想されます。

 

 

International Labour Organization(国際労働機関)とWalk Free Foundation(オーストラリアを拠点とする国際人権保護団体)が協同して発表した”Global Estimates of Modern Slavery (First published 2017)では、全世界で現代奴隷の被害にあっている人々は約4000万人に及んでいるといわれています(内訳:強制労働が約2500万人、強制結婚が約1500万人)。

 

そのため、日本を含む世界全土で、この現代奴隷の問題に取り組まなければならないことは明白です。

 

 

 

 

他方で、特に海外にサプライチェーンを有する企業側に立つと、そのすべての現場で、現代奴隷の実態がないかを把握することは中々一筋縄にはいかないことは容易に想像できます。

 

特に、サプライチェーン上にいる海外企業が事業を行っている国において、オーストラリアのような現代奴隷法があれば、その報告書の内容等を端緒として把握するきっかけがあるかもしれませんが、そのような法制度が未だない国においては、中々難しいことが予想されます(契約法的に、契約の当事者に対しては、定期的に人権デューデリジェンスのようなものをして、報告を上げさせるなどが考えられますが、直接の契約関係にないサプライチェーン上の末端企業の部分にまでそれらの報告を上げさせることは、現実的に困難でしょう)。

 

 

そのため、仮に現代奴隷法の厳格化(例えば、厳格なpenaltyを課すなど)を実施していくとしても、まさにこの「ビジネスと人権」の観点での検討を要します。

 

例えば、「現代奴隷法に違反・抵触している企業」といっても、「報告書すら提出していない企業において、強制労働の実態が認められた」場合から、「報告書も提出し、かつその報告書の内容で効果的な現代奴隷リスクへの対応策がうたわれていたものの、サプライチェーンの末端部分で強制奴隷の実態が認められた」場合まで、その程度は千差万別であり、その程度に応じた規制の強化をまずは図っていくことなどが考えられるでしょうか(個人的には、法的義務である報告書すら提出していない企業に関しては、さすがに厳格な処罰が課されても、仕方がないのかと感じます)。

 

 

 

 

現代奴隷法の分野は、このような昨今取り上げられることの多くなった「ビジネスと人権」の問題が顕在化するところであり、これからのルールメイキングという意味でも、興味深い分野と感じます。

 

 


 

【2023.9.20追記】

 

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弊所のビジネスと人権を中心としたESG法務に関して、ご相談等を希望される企業の皆様におかれましては、同ビジネスと人権法務ウェブサイト上の問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

 

 

 

企業の皆様からのご連絡・ご相談を、心よりお待ち申し上げております。

 

 


 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

 

 

【弁護士 高橋 健】

 

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