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オーストラリアビジネス法務(24)-The Modern Slavery Act 2018 (Cth) (Act) (4)-

弁護士 髙橋健

1.現代奴隷報告書に求められる記載事項

 

オーストラリア現代奴隷法は、一定の期間内に連結収益がAUD100million以上ある企業、という適用要件がありますが、そこでいう企業は、純粋なオーストラリア国内の現地法人に加え、オーストラリアで事業を営む企業(carries on business in Australia at any time in that reporting period)も含まれます(Modern Slavery Act 2018, “5 Meaning of reporting entity” (1) (a))。

 

この適用範囲については、こちらのコラムをご参考ください。

 

今回のコラムでは、オーストラリア現代奴隷法が適用となったとき、日系企業の皆様が、どのような内容の報告書を作成し、提出しなければならないのか、についてご紹介します。

 

オーストラリア現代奴隷法第16条(1)及び(2)では、次のような定めがおかれています。

 

以下の現代奴隷法原文(英語)は、読むことが非常に辛い(?)と思われますので、その後、「2」において、そのような法律で求められている記載事項(Mandatory criteria)が、実際の報告書においてどのように記載されるのかを、日本語で具体的にご説明します。

 

 

 

 

(1) A modern slavery statement must, in relation to each reporting entity covered by the statement:
(a) identify the reporting entity; and
(b) describe the structure, operations and supply chains of the reporting entity; and
(c) describe the risks of modern slavery practices in the operations and supply chains of the reporting entity, and any entities that the reporting entity owns or controls; and
(d) describe the actions taken by the reporting entity and any entity that the reporting entity owns or controls, to assess and address those risks, including due diligence and remediation processes; and
(e) describe how the reporting entity assesses the effectiveness of such actions; and
(f) describe the process of consultation with:
(i) any entities that the reporting entity owns or controls; and
(ii) in the case of a reporting entity covered by a statement under section 14—the entity giving the statement; and
(g) include any other information that the reporting entity, or the entity giving the statement, considers relevant.

 

(2) A modern slavery statement, other than a statement to be given under section 15 (Commonwealth modern slavery statements), must include:

(a) for a statement to be given under section 13 (modern slavery statements for single reporting entities)—details of approval by the principal governing body of the reporting entity; or

(b) for a statement to be given under section 14 (joint modern slavery statements):

(i) details of approval by the relevant principal governing body or bodies; and

(ii) if subparagraph 14(2)(d)(iii) applies—an explanation of why it is not practicable to comply with subparagraph 14(2)(d)(i) or (ii).

【Modern Slavery Act 2018 Article 16 “Mandatory criteria for modern slavery statements”】

 

 

2.実際の報告書(modern slavery statements)の概要

 

次に、実際の報告書の概要を見てみましょう。

 

実際の報告書は、オーストラリアの政府機関Attorney-General’s Departmentのwebサイトで公開されています(詳細は、以前のこちらのコラムをご参照ください)。

 

報告書では、上記「1」でご紹介した豪州現代奴隷法上の必要記載事項(Mandatory criteria)をカバーしている必要があります。

 

各社においては、それ以外の事項も各自のポリシーや取り組み等に沿って任意で記載することが可能ですので、報告書の内容・項目は千差万別ですが、一般的には、概ね次のような項目が記載されているといえます。

 

 

(1)Reporting entity, and structure, operations and supply chains

 

まずは、報告書の主体(Reporting entity)を明確にする必要があります(豪州現代奴隷法16.1(a))。

 

また、その報告主体のストラクチャー、運営、そしてサプライチェーンについての説明が必要となります(豪州現代奴隷法16.1(b))。

 

ここでは、例えば、報告主体の人的構成、本社や支店・営業所の情報、ビジネス内容、さらには当該報告主体(オーストラリア現地法人)が日本法人の子会社である場合は、その旨の説明も必要かつ相当な範囲でなされることが一般的です。

 

 

(2)Modern slavery risks in operations and supply chains

 

次に、報告主体の企業のオペレーション及びそのサプライチェーン上での現代奴隷のリスクについて、説明することが求められます(豪州現代奴隷法16.1(c))。

 

ここは、基本的には報告主体のビジネス自体に類型的に潜んでいる潜在的なリスクと、当該報告主体固有の潜在リスクを記載することになります。

 

例えば、アパレル・繊維産業にかかわる企業(報告主体)であれば、自社内及びサプライチェーン上の「低賃金、長時間労働、ハラスメント、国籍・年齢・性別のみを理由とした差別等の合理的理由のない差別」や、「児童労働・強制労働のリスク」、「劣悪な健康及び安全基準を含む労働環境のリスク」といった類型的な潜在リスクが考えられますが、それらの類型的なリスクをベースとしつつ、自社固有の潜在リスクにも目を配り、それらを説明することとなります。

 

なお、もし報告主体において現代奴隷のリスクが顕在化している場合は、当然ながら、それも説明・報告対象にあげる必要があります。

 

以上の現代奴隷のリスク洗い出しは、通常、人権DDを行う場合のファーストステップになる事項、具体的には、経産省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」とその「実務参照資料」でいう「ステップ①:リスクが重大な事業領域の特定」に該当する事項と考えられます。こちらのコラムもご参考ください。

 

 

(3)Actions taken to assess and address those risks

 

前記(2)であげた現代奴隷のリスクを、どのように評価し対応したかを説明する必要があります(現代奴隷法16.1(d))。

 

この事項は、経産省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」でいう、「負の影響の防止・軽減」(人権侵害の防止・解消の実施)のステップに該当する事項と考えられます。

そのため、報告主体の親会社である日本企業において、そのような人権DDの取り組みをされている場合は、そこで検討しているような項目がこの報告書の記載項目の一つになる、と考えてよいでしょう。

 

なお、現代奴隷法16.1の末尾では、この(d)に関して、現代奴隷に関するリスクに対応するための方針を策定したり、プロセスの開発、さらには、現代奴隷についてスタッフへの研修の実施を含むことができる、と記載されています。

そのため、報告主体においては、これらの基本的な対応・措置は実際に取ったうえで、報告書に記載することがよいでしょう。

 

 

(4)Assessing the effectiveness of such actions

 

前記(3)であげたアクションの効果をどのように評価したか説明する必要があります(現代奴隷法16.1(e))。

 

この事項は、経産省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」でいう、「取組の実効性の評価」(取組に効果があったか実証・評価)のステップに該当する事項と考えられます。

 

 

(5)Process of consultation

 

もし報告主体において、所有又は支配する事業体があれば、そことの協議を図り、その点を報告事項に含めることが求められます(現代奴隷法16.1(f))。

 

 

(6)Approval

 

オーストラリア政府に提出する報告書は、報告主体(企業)の主要管理機関による承認を受ける必要があり、かつその承認を受けたこと自体を報告書に記載する必要があります(豪州現代奴隷法16.2(a))。

 

この「主要管理機関」(the principal governing body)とは、聞きなれない言葉かとしれませんが、法人(報告主体)のガバナンスに対して責任を負う機関とされ、通常は取締役会がこれにあたると考えられます。

 

そのような機関の承認を求める点は、「報告書」と「人権ポリシー」とで性質の異なるものですが、経産省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」で、人権方針策定にあたり、「企業のトップを含む経営陣で承認されていること」を求めている趣旨と同様のものと考えられます。

 

 

 

 

 

以上、今回は、オーストラリアの現代奴隷法(Modern Slavery Act)で提出の求められる報告書(modern slavery statements)における、必要記載事項(Mandatory criteria)について、簡単ではありますがご紹介しました。

 

 


 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

 

 

【弁護士 高橋 健】

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