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オーストラリアビジネス法務(3)ー日豪EPAの恩恵を受けるためにはー

弁護士 髙橋健

 

【オーストラリアビジネス法務(3)-日本・オーストラリア間EPAの恩恵を受けるためには-】

 

 

 

1 EPAの恩恵は単にオーストラリアから品物を輸入するだけで受けられるのか?

 

 

オーストラリアビジネス法務(1)でご紹介した通り、日本とオーストラリアとの間のEPA(経済連携協定)では、かなり広範囲にわたって、二国間の輸出入の関税を撤廃または軽減する措置が認められています。

 

特にバルクワイン(150L超)などは、即時撤廃(関税0%)が認められており、日本国内のオーストラリアワインのインポーターからすると、かなり魅力的な内容となっています。

 

 

ところで、このEPAによる恩恵(バルクワイン(150L超)であれば即時関税撤廃)は、単に「オーストラリアから輸入するバルクワイン」であれば全てに適用されるのでしょうか。

 

答えは、NOでして、主には以下のような基準・手続をクリアする必要があります。

 

 

①対象品の製造工程に注目した「原産地基準」の問題【製造工程の問題】

 

②上記①の原産地基準を満たしていることを輸入国税関が確認する手続面に注目した「原産地手続」の問題【手続の問題】

 

③対象品が日本に輸入される際の運送経路に注目した「積送基準」の問題【運送経路の問題】

 

 

以下、簡単に①~③それぞれをご紹介します。

 

 

2 ①製造工程の問題(原産地基準)

 

 

ワインを例にして考えてみましょう。

 

 

「オーストラリアから輸入したワイン」といっても、その製造工程は以下の通りさまざまです。

 

 

㋐ぶどうの収穫⇒醸造⇒瓶詰め すべてがオーストラリアで行われるパターン(パターン㋐)

 

㋑ぶどうの収穫(第三国)⇒(ぶどうが第三国からオーストラリアに輸入され)醸造(オーストラリア)⇒瓶詰め(オーストラリア)のパターン(パターン㋑)

 

㋒ぶどうの収穫(第三国)⇒醸造(第三国)⇒(醸造されたワインがオーストラリアに輸入され)瓶詰め(オーストラリア)のパターン(パターン㋒)

 

 

このような原材料や製造工程に照らして、いわば品物の国籍を定める基準が「原産地基準」といえます。

 

EPA(附属書含む)には、このような原産地基準が細かく定められておりますが、結論としては、日豪EPAでは、ワインに関していえば、上記㋐~㋒のパターンのうち㋐のパターンだけが、「オーストラリア産ワイン」としてEPAの恩恵を受けることができる、とされています。

 

 

3 ②手続の問題(原産地手続)

 

 

(1)自己申告制度とは

 

 

上記①でお話した通り、原産地基準は、細かく決められており、時に複雑な判断が求められます。

 

そのため、問題となっている輸入品が、果たして原産地基準を満たしているか、税関において最終的な判断をする必要があります。それが原産地手続です。

 

 

これまでのEPAでは、一般的には「第三者証明制度」(輸出者側で原産地証明書という書類の発行を発給機関から受け、それを輸入者に送付し、輸入者がそれを税関に提出する制度)のみが採用されてきました。

 

 

しかしながら、今回、日豪EPAでは、上記「第三者証明制度」が煩雑で、活発な貿易の妨げの要因となってしまわぬよう、新たに「自己申告制度」を並列的に設けました。

 

 

この「自己申告制度」とは、輸入者、輸出者または生産者自らが、(第三者の発給機関を介することなく)今回の産品が日豪EPAの適用のある原産品であること等を明記した書類(原産品申告書)を作成できる制度です。

 

 

これにより、輸入者等は、「発給機関から原産地証明書の発給を受ける」という手間をかけることなく、スムーズに輸出入することが可能となります。

 

 

もっとも自己申告制度を用いる際、輸入者等は、原則として、自らが作成した原産品申告書に加えて、原産品であることを明らかにする書類(原産品申告明細書や、その明細書上で説明していることを裏付ける契約書や製造工程表など)も税関に提出する必要があります。

 

つまり、単に自らが作成した申告書だけでは当然足りず、それを裏付ける資料も提出しなければならない、ということです。

 

 

(2)事前教示制度とは

 

 

また、前述した通り、問題となっている品物の原材料がオーストラリア以外の第三国で収穫されたものである場合等、原産地基準を満たしているか否か、判断に迷う場合もあります。

 

そして、もしEPA税率が適用されると思って輸入したところ、実際には原産地基準を満たしておらず、EPA税率が適用できなかった、というような事態となれば、輸入業者は予想外のコストを強いられることとなります。

 

そのため、そのような事態を回避するために、特に自己申告制度における輸入者の予見可能性を担保するべく、事前に税関に審査をしてもらう制度(事前教示制度)が設けられています。

 

この事前教示制度を用いれば、輸入者側としても、後で「そんなはずではなかった・・(EPA税率が適用されると思ったのに、適用されなかった・・)」という事態を避けられるものと思います。

 

 

なお、この制度を利用して、税関から事前にEPAの適用がある原産品である旨の回答を、書面にて正式に取得していれば、前述した税関申告時に必要となる「原産品であることを明らかにする書類」を原則省略できる等のメリットもあります。

 

 

4 ③運送経路の問題(積送基準)

 

 

最後に、仮に製造工程まではEPAの適用が受けられる原産品であったとしても、その後のオーストラリア⇒日本の運送経路に問題があった場合には、EPAの恩恵が受けられないこととなります。

 

例えば、オーストラリアから日本に輸送される途中で、第三国に立ち寄り、そこで何らかの加工等がなされると、積送基準を満たさず、EPA適用外となってしまう可能性が高くなります。

 

 

いくつかの例外はありますが、基本的には、オーストラリアから日本に直接運送されることが必要となります。

 

 

5 まとめ

 

 

以上の通り、EPAの恩恵を受けるためには、いくつかの基準や手続を満たす必要があります。

 

そのため、実際に今回の日豪EPAを用いたインポートビジネス等を展開しようとする場合には、事前に一定の調査や専門家への相談を行うことをおすすめします。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

【弁護士 髙橋 健】

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