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オーストラリアビジネス法務(4)-日本から見たオーストラリアスポーツの可能性ー

弁護士 髙橋健

 

【オーストラリアビジネス法務(4)-日本から見たオーストラリアスポーツの可能性ー】

 

 

 

1 自己実現のため、下積み時代にも契約内容にこだわる

 

 

先日、FIFAワールドカップアジア最終予選イラク戦に向けたサッカー日本代表のメンバーが発表されました。

 

今回、最もサプライズだったのは、ブルガリア1部リーグでプレーする加藤恒平選手の選出ではないでしょうか。

 

日本代表のハリルホジッチ監督は、昨年にも記者会見の席で、加藤選手をチェックしているとの発言をしておりましたが、今回、実際に代表選手として選出するに至りました。

 

 

私自身、正直に申して、加藤選手のことは、ほとんど存じ上げておりませんでした・・。

 

そのため、今回のサプライズ選出を受け、加藤選手のことを何気なくインターネットで調べていたところ、現在メディアでもよく取り上げられている「J2での実績しかないところ、欧州を渡り歩き、今回、日本代表まで這い上がってきた」という経歴を知るに至りましたが、それ以上に加藤選手の、目標に向けたプランニング力に驚かされました。

 

 

その一例としては、これまで渡り歩いてきた諸外国(アルゼンチン、モンテネグロ、ポーランド、そして現在はブルガリア)でのチームとの契約の際の条件設定があげられます。

 

 

加藤選手のインタビュー記事によれば、加藤選手は、これまで、常に「スペインでプロになる」「日本代表になる」といった目標に向けて、移籍先チームと契約する際の条件や、そのリーグの特性等にこだわってこられたようです。

 

例えば、モンテネグロのチームと契約する際には、『代表活動期間中は他の国でテストを受けてもいい』という条件を盛り込んだり、その後、ポーランドのチームに移籍する際には、ポーランドリーグを経由してヨーロッパ主要リーグの一つであるドイツに移籍している選手が多かったことを事前にリサーチされていたようです。

 

 

また、現在所属しているブルガリアのチームに移籍する際にも、そのチームが、前年度の成績でヨーロッパリーグの予備予選に出場できることから、その予備予選等を戦う中で良いパフォーマンスをして、さらに上のレベルのチームにステップアップできるように、8月31日(移籍したのはその年の6月)までに他チームからオファーがあれば、その他チームに移籍しても良いという条件を契約内容に盛り込んだとのことです。

 

 

下積み時代となると、とにかく「取ってくれるチームがあれば、喜んでどこにでも行きます!」という姿勢になりがちで(それはそれで、出発点としては大切な思考だと思いますが)、しっかりとした代理人が付いていないことも手伝ってか、細かな契約条件にまで目を配らせることなく、契約を結んでしまうことが多いように思われますが、加藤選手は、将来の自己実現のために、このあたりも徹底してこだわっておられたようで、大変感心させられたところです。

 

 

また、それとともに、日本人プロスポーツ選手の将来の成功のためには、そういった下積み時代の選手の法務面のサポートを、我々弁護士のような法律・交渉の専門家が、選手に直接、あるいは選手のマネジメント会社等を通じて、フットワーク軽く、かつリーズナブルに対応していくべきですし、そうありたいと改めて思いました(加藤選手も、ご自身で日本語の通じない海外の代理人に要望を伝え、対応していた部分もあったようですが(それはそれで、相当優秀だなと思わずにはいられませんが)、重要な局面では、信頼できる日本人の代理人の方にご相談されていたようです)。

 

 

2 日本からみた、オーストラリアスポーツの可能性

 

 

このように、今日のグローバル化されたスポーツの世界には、「トップアスリート」という限られた世界以外において、まだまだ「法務」という側面で改善の余地があるように思われるわけですが、日本からみたオーストラリア・スポーツの世界ではどうでしょうか。

 

 

まず、日本人からみて、オーストラリア・スポーツに魅力がなければ、そこにチャレンジしようとする日本人アスリートは生まれず、法務面のニーズもないわけですが、昨今、「オーストラリア スポーツ留学」という専門サイトがあるほど、そこには魅力がたくさんあるように思われます。

 

 

まずもってあげられるのは、ラグビーではないでしょうか。

 

ご承知の通り、オーストラリアは、本場ラグビーのメッカであり、そこで活躍することを目指して、日本のトップラガーマンがオーストラリアのチームに移籍をすることもあるほどです。

 

そして、日本とオーストラリアとは、季節が逆であることから、日本のトップラガーマン予備軍の若手選手などは、日本でシーズンオフの時期に、オーストラリアに渡り、そこでハイレベルな試合等をこなし、経験を積みたいというニーズも持っているようです。

 

そのため、ラグビーの世界では、トップ選手は勿論のこと、トップ選手を目指して修行を積もうとする日本人選手が、オーストラリアに渡ることは十分あることであり、そうなると、そこでフットワーク軽く、かつリーズナブルに身の回りの法務面(現地のチームとの契約のみならず、例えばビザの問題や、住居に関する契約の問題など種々考えられます。またこれまで所属していた日本国内のチームとの契約内容についても、再考する必要があるかもしれません)をサポートできる法律家のニーズがありそうです。

 

 

では、サッカーの世界ではどうでしょうか。

 

 

確かに、加藤選手のように、将来、ヨーロッパの主要リーグでプレーすることを目標とした場合、オーストラリアのサッカーリーグ(A-League)で下積みをすることが「ベスト」な選択とまでいえるかは、一定の検討が必要かもしれません。

 

しかしながら、昔から言われている、選手寿命の短いプロサッカー選手のセカンドキャリアをどう構築していくか、という視点でみれば、オーストラリアは非常に魅力的なように思われます。

 

例えば、オーストラリアは英語圏の国ですので、当然、サッカーをやるにしても英語力が必要ですし、チームに溶け込もうとすれば、それは自ずと向上していくでしょう。

 

アジアのサッカー強豪国で、このような英語力の向上も見込まれる国は、オーストラリア以外、あまり思い当りません。

 

また、オーストラリアは、インフラも整備されており、治安も他のアジア諸国と比較すると安定している方といえます。

 

そして、肝心のオーストラリアのサッカーリーグのレベル自体も、2014年にウェスタン・シドニー・ワンダラーズFCがアジアNO1クラブを決めるAFCチャンピオンリーグで優勝するなど、アジアというエリアで見た場合、ハイレベルなリーグといえます(過去には著名な海外のスター選手が所属していたり、日本人選手でも、一時期、三浦知良選手や小野伸二選手らが所属していました)。

 

 

このように、オーストラリアは、ラグビーであれば、トップアスリートを目指す修行の場として間違いなく魅力的な国ですし、またサッカーなどでも、十分修行の場となり得ますし、何よりセカンドキャリアを見据えた場合、大変魅力的な国といえるのではないでしょうか(実際にも、オーストラリアでプロサッカー選手としての生活を過ごした後、引退して、そこで培われた経験や英語力を駆使して、オーストラリアに関わりを持つプロ選手のマネジメント会社を設立したり、英語を用いたサッカー教室ビジネスなどを展開されている方もいらっしゃるようです)。

 

 

 

これまで、スポーツ法務全般に積極的に取り組んできた当事務所では、こういったオーストラリアのスポーツ法務分野(特に、まだ十分に法サービスが行き届いていない、下積み時代の若手選手や、そういった選手を支援するマネジメント会社様の法務面での支援)にも積極的に取り組んでおります。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

弁護士 高橋 健

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