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オーストラリアビジネス法務(7)-定款とReplaceable rules-

弁護士 髙橋健

(本コラムでは、特段の断りがない限り、日系企業がオーストラリア進出の際によく用いる法人形態であるCompany Limited by shares(有限責任株式会社)で、かつProprietary company(非公開会社)を念頭においてお話します。)

 

1 オーストラリア会社法における定款

 

 

例えば、日本企業の皆様が、オーストラリア国内において、現地法人と合弁事業契約(法人設立型)を行う場合、通常は、株主間契約書等とともに、設立する新会社の定款もあわせて作成することが多いのではないでしょうか。

 

 

その場合、定款の作成等をお手伝いさせて頂く弁護士としては、オーストラリア国内法(会社法等)において、例えば何が株主総会の特別決議事項として定められているのかであったり、そもそも特別決議の要件は何か、さらには定款によって変更できる部分と出来ない部分はどこか、など、現地法のリサーチが必要となってくるわけですが、今回は、CORPORATIONS ACT 2001(以下「豪州会社法」といいます。) における定款の位置づけと、Replaceable rulesという仕組みをご紹介したく考えています。

 

 

まず、豪州会社法において定款は、会社と各株主との間、会社と各取締役及び秘書役との間、そして株主間の契約として効力を有する、と定められています(豪州会社法第140条(1))。

 

そして、豪州会社法では、非公開会社に対し、定款の作成義務を明記しておりません。また、公開会社においては、定款を作成すれば、それをASICに提出する義務を負いますが、非公開会社は、豪州会社法に基づき公開会社に組織を変更する場合は別段、そうでなければASICへの提出義務もないと考えられています(豪州会社法136条(5))。

 

 

日本では、株式会社は、設立時点で定款を作成する必要がある(日本会社法26条第1項)とされていますが、豪州会社法ではそのような定款の作成義務は定められていないわけです。

 

 

2 Replaceable rulesとは

 

 

このように豪州会社法では、会社に定款の作成を義務付けていないと考えられるわけですが、もし定款を採用しない会社が存在した場合、その会社のルールは、全面的に豪州会社法によって規律されることとなります。

 

逆にいえば、会社は、定款を作成すれば、一定の範囲内で、豪州会社法とは異なるルールを決めることが可能とされており、その一定の範囲内として明記されているのがReplaceable rulesと呼ばれる豪州会社法上の規定群です。

 

この、『会社が定款によって独自にルールを定めることが可能』と考えられている豪州会社法の規定群のことが、置き換え可能な(Replaceable)ルール群(rules)としてReplaceable rulesと呼ばれているわけです。

 

豪州会社法の規定のうち、強行規定(当事者によって法律と異なる定めを置くことができない規定)ではない任意規定のことをReplaceable rulesという、とも表現できるでしょうか。

 

 

このReplaceable rulesは、豪州会社法において、どこかの条項に固まって定められているわけではなく、色々な条項に散らばっています。

例えば、株主総会の定足数を定める豪州会社法249条Tの表題は、Quorum (replaceable rule–see section 135)といった形で定められており、それがReplaceable rulesの一つであることが明らかにされています。

 

 

3 小括

 

 

このように豪州会社法では、定款にて変更可能な規定(Replaceable rules)が明記されており、そのため、定款を作成する場合には、豪州会社法の規定に抵触しないか、仮に抵触するとしても、その規定はReplaceable rulesではないか、を検討することが肝要となります。

 

 

そして、定款でReplaceable rulesの内容と異なる規定を定めようとする場合は、その明確性を担保するため、当該定款に『Replaceable rulesの適用は一切除外する』旨の規定を定めることが一般的といえます。

 

 

 

次回以降のコラムでは、法人設立型の合弁契約を想定しながら、重要と考えられる豪州会社法の規定を、それがReplaceable rulesとして定められているか否かという視点も交えて検討していこうと思います。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

弁護士 高橋 健

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