オーストラリア法務をトータルでサポート

オーストラリア訪問記(12)

弁護士 髙橋健

シドニー&ゴールドコースト 日豪相続セミナー開催

~失敗事例から学ぶ、海外在住者の「遺言」の落とし穴~

 

 

 

 

 

今年2度目のオーストラリア訪問として、2025年12月3日にゴールドコースト、5日にシドニーにて、「日豪相続セミナー」を開催いたしました。

 

今回は、前回のようにフライトの突然キャンセルによる過酷な帰国便とならず、予定通りの帰国ができ、今、機上with JET STREAMでこのコラムを作成しています。

 

今回もたくさんの方々にお会いすることができました。

 

初めましての方、久しぶりの方、毎回恒例となっている方々、本当に有難うございました。

 

そして出張中ゆえにご迷惑をおかけしたクライアントの皆様、申し訳ございませんでした・・・。

 

 

【今回のセミナー概要】

 

今回のセミナーのテーマは、「失敗事例から学ぶ相続対策」。

 

「相続対策」というと、どうしても「税金(節税)」の話に意識が向きがちですが、我々弁護士が担当する「法務(遺言・遺産分割)」の分野でも、準備不足が原因でご家族が大変な苦労をされるケースが後を絶ちません。

 

特に、オーストラリアにお住まいの皆様にとって、日本の資産をどう守り、どう引き継ぐかは、国境を越えるがゆえの特殊な「落とし穴」が存在します。

 

今回のセミナーでは、特に海外在住の方が陥りやすい以下の「失敗事例」をもとに、その対策についてご紹介しました。

 

 

 

 

 

(1)失敗事例その1:「そもそも遺言書を作成していなかった」

 

残された豪州在住の配偶者の方や法定相続人の方が、日本の資産について困られるケースがとても多いところです。

 

特に残された配偶者がオーストラリア人の方だと、そのような困難な状況に直面するケースが非常に多いです。

 

 

(2)失敗事例その2:遺言執行者に「配偶者」(豪州在住)を指定してしまう

 

軽い気持ちで、一番近しい豪州在住の配偶者をExecutor(遺言執行者)に指定することは、将来の日本の手続きにおいて注意が必要です。

 

もし、日本語が読み書きできないパートナーの方を、日本の遺言執行者に指定してしまうとどうなるでしょうか?

 

日本の金融機関の複雑な解約書類、戸籍の収集、担当者(日本語対応のみ)との交渉……これら全てを日本語で行うのは、パートナーの方にとって過酷な負担となります。

 

「誰に託すか」が将来の円滑な相続手続きの成否を分けることもあります。

 

日本国内にある資産の手続きについては、信頼できる日本在住の親族や、我々のような弁護士等の専門家を遺言執行者に指定することで、スムーズかつ確実に資産を承継することができます。

 

 

(3)失敗事例その3:「オーストラリアの遺言書一本で大丈夫」という誤解

 

「オーストラリアで遺言書(Will)を作っているから、日本の財産もそれでカバーできるはず」

 

そう考えていらっしゃる方は非常に多いのですが、これは法的には可能でも、実務的には「いばらの道」となることがあります。

 

一般的には、「日本の資産は日本の方式の遺言書」、「オーストラリアの資産はオーストラリアの方式の遺言書」を準備することがベストとなります。

 

どうしてもどちらか一方の遺言書のみで日豪双方の資産をカバーされたい場合は、日本の公正証書遺言をお勧めします。

 

その理由は、日本の公正証書遺言の方式で作成された遺言書は、オーストラリア法に従った遺言書の作成要件を満たすことが多いためです(ただし、実際に遺言執行する場合には、英語への翻訳や日本の弁護士の意見書が必要になる等、一定のプラスアルファの手続きが必要となることが多いところです)。

 

 

(4)失敗事例その4:「自筆証書遺言」の思わぬリスク

 

「それでは、日本の資産に関して、自分で日本語の遺言書を書いておこう」

 

そう思われるかもしれませんが、ここにも大きな落とし穴があります。

 

日本の「自筆証書遺言」は、オーストラリア法に従った遺言の形式要件を具備しないことが通常であるだけでなく、海外在住者特有の問題があります。

 

日本の家庭裁判所における「国際裁判管轄」の問題です。

 

日本の法律では、オーストラリアに最後の住所を有して、オーストラリアでお亡くなりになった場合、その方がオーストラリアで作成していた自筆証書遺言は、日本の家庭裁判所で検認手続きを受けられないことが原則となります(家事事件手続法第3条の11第1項)。

 

 

「せっかく書いた遺言書が、手続きに使えない」。

 

 

このような事実上の執行不能というケースは、作成した方(被相続人)にとっても、また残された相続人の方々にとっても、大変気の毒な状況です。

 

これを避けるためにも、不備のリスクがなく、検認も不要な「公正証書遺言」の作成を推奨しています。

 

 

なお、今年施行された、公正証書のデジタル化・オンライン化の法改正についても、海外在住者の方々にとっては今後重要なものになる可能性があるため、今回のセミナーでは、そちらのアップデートもさせていただきました。

 

 


 

 

今回、ゴールドコースト・シドニーそれぞれのセミナー会場には、平日の夕方であるにもかかわらず、それぞれ30名以上の方にご参加いただき、皆様の関心の高さを肌で感じました。

 

当事務所では、海外在住の方の日本の相続・遺言作成のサポートを数多く手がけております(英語対応も可能です)。

 

また、豪州の資産についてのオーストラリア法に従った遺言書作成についても、連携先の豪州現地の法律事務所様をご紹介可能です。

 

さらに日本の相続税等に関するアドバイスも、適切な日本の税理士の先生と連携しながらサポート可能です。

 

「自分の場合はどうだろう?」と気になられた方は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

 

(いつものMartin Place with 夏のクリスマスツリー)

 

 

【本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。】

 

【弁護士 高橋 健/ Lawyer Ken Takahashi】

弁護士 髙橋健 のその他の専門知識