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オーストラリア訪問記(7)

弁護士 髙橋健

 

11月,オーストラリア出張を敢行してきました(日本国内のクライアントの皆様,色々とご不便をおかけし申し訳ございませんでした・・)。

 

 

今回は,前半,ゴールドコーストで開催された一般社団法人WAOJE(World Association of Overseas Japanese Entrepreneurs)様主催のGlobal Venture Forum 2019 in Gold Coastに,「こわい!法律家が指摘する、海外起業の落し穴」という専門職セッションのパネリストの一人として参加させて頂きました。

 

 

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また,ゴールドコーストを訪れた際の恒例行事である,サーファーズパラダイスで朝日を拝むべく,最終日の早朝,ビーチに行きましたが,今回は,オーストラリア国内で近年稀にみる山火事が発生しており,靄がかかった状態でした。

 

 

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その後,後半は,シドニーに移動し,提携先の法律事務所様に連日お邪魔し,共同で対応している案件の打ち合わせ等を行いました。

 

今回は,その共同受任案件で感じたことを一つ,ご紹介できればと思っております。

 

 

今回,私は,とある豪州国内の訴訟案件に日本国弁護士として携わる機会を頂いて,シドニー滞在中,提携先の法律事務所の弁護士の先生とともに,当該訴訟を担当しているオージーの弁護士(barrister(バリスター)とsolicitor(ソリシター)の2名)とミーティングをしたり,頻繁にコミュニケーションを取る機会がありました。

 

 

オーストラリアでは,イギリス等と同様,法廷弁護士と訳されるバリスタと,事務弁護士と訳されるソリシタと呼ばれる弁護士の2種類に分かれていますが,訴訟案件となると,基本的には実際に法廷に行き,弁論等を行う業務はバリスタが行い,その弁論等を行うために必要となる事実関係の確認(当事者からのヒアリング等)や証拠収集はソリシタが行う(その前提としてバリスタとソリシタが,どのような証拠が必要となるか等の打ち合わせを行う),という基本構造があるようです。

 

 

今回,実際に豪州の訴訟案件に携わってみて,本当にバリスタとソリシタの役割って分かれてるんだな・・と実感しました。

基本的には,私は,ソリシタの弁護士からリクエスト等を受けて,それに応じて協力する,という感じで,バリスタとは,一度,電話ミーティングで話した程度です。

 

 

当事者のヒアリングや証拠収集を含め訴訟活動はすべて担当弁護士が行う日本の感覚からすると,「バリスタの先生,やりにくくないんかいな・・・」と感じずにはいられませんでした・・。

 

例えば,バリスタとソリシタがしっかりと意思疎通図れていないと

 

ソリシタ)「本件の証拠として■■を収集してきました。」

 

バリスタ)「いや,本件での争点は●●だから,この●●との関係で重要となるのは▲▲という証拠でしょ・・?なに■■ばっかり収集してんだよ・・」

 

とかいうバリスタ・ソリシタ間の熱い戦いが生じてしまいそうです・・。

 

 

実際に当事者と打ち合わせや証拠収集する過程で,効果的なアイディア・訴訟戦略も生まれることがありますので,私個人としては「バリスタの先生,やりにくいだろうな・・」という感覚が強かったです。

 

 

提携先弁護士の先生によれば,オーストラリア国内でも,法律上は,一部を除いて,ソリシタでも法廷活動はできるとのことで,そのため,現在は,バリスタ・ソリシタの構造も希薄化してきているようです。

 

 

ちなみに,ソリシタ(Solicitor)のSolicitは,他人に情報や協力等を求めるという意味を持ちますが,まさに訴訟案件に関与するソリシタの先生の役割は,バリスタの法廷活動をより効果的にするため,関係当事者に情報や協力等を求める,という仕事内容だと感じました。

歴史的には,このソリシタが協力を求める「他人」とはバリスタだったのかと推測されますが(市民等から訴訟をしたい,という要望を受け,ソリシタからバリスタに訴訟を懇請する・せがむ,といった感じでしょうか)。

 

 

ところで,日本でも,ロースクールができ,法曹人口が急増したことに伴い,弁護士の専門性がさけばれ,その流れで訴訟ばかり扱う「訴訟専門弁護士」と,訴訟を扱わない弁護士の二分化が進むのではないか,という議論もありましたが,私の印象では,それは起こり得ないのかなと思っております。

 

その大きな理由の一つとしては,バリスタ・ソリシタの構造を持つオーストラリア等と異なり,日本では弁護士以外に司法書士や行政書士の先生がおり,そのため,訴訟以外の弁護士の仕事の範囲が狭いことがあるかと思います。

 

要は,一部の大事務所を除いて,日本の中小規模の法律事務所において,訴訟を一切扱わない弁護士では十分な経済的基盤を確保することが困難ではないか(オーストラリア等と異なり,近接士業が多く,訴訟以外の弁護士の活躍できるフィールドが未だ十分に開拓されていないため),ということがあげられます。

 

 

いずれにしても,今回のオーストラリア滞在でも色々と有意義な経験をさせて頂きました。

 

滞在中,お世話になった方々(快くお食事等にお付き合いいただいた方々を含む),今回も大変お世話になりました。有難うございます。

 

 

※提携先法律事務所があるMartin place。ここも「シドニーに来たなぁ」と思わしてくれる,とても好きな場所です。

 

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本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

 

【弁護士 髙橋 健】

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