オーストラリア訪問記(8)
1.コロナ明けシドニー訪問
ようやくオーストラリア訪問記を再開することができました。
コロナ後、初めてシドニーに1週間、滞在してきました。日本への帰路の機中で、JET STREAMを聞きながらこの訪問記を書いています。
今回も、基本的には懇意にさせていただいているシドニーの法律事務所様に滞在させていただきつつ、コロナ期間中、直接お会いすることの叶わなかったオーストラリア現地の皆様と会食や情報交換等をさせていただきました。
シドニー現地の法律事務所様、そしてオーストラリアでお時間いただいた皆様、本当にお世話になりました、有難うございました。
オーストラリア現地の法律実務をたくさん情報共有いただくとともに、改めて日豪の法制度や実務の相違点をディスカッションすることで、オーストラリア法務の専門知識・経験を深め、また今後も一層研鑽を積んでいこうと気持ち新たにしたところです。
2.Cho Cho Sanというレストラン
真面目なお話はこのぐらいにして、以下、今回の滞在の中でとても興味深かったことを一つご紹介できればと思います。
今回、シドニーの弁護士さんにお誘いいただき、「Cho Cho San」(ちょうちょうさん)という(後述のとおり、『一応』)日本食のレストランに行きました。
伺った日は、Anzac Dayという豪州の祝日の前日、ということもあったのですが、午後6時からずっと満席、しかもそのほとんどはローカルのオージーの方々でした。
まさに大人気。これほどまでローカルの人々に受け入れられている日本食レストランは、これまで見たことがありません。
しかし、シドニーの弁護士さん(国籍はオーストラリアですが、生い立ちは日本で、私より日本に詳しい日本人の先生です)が、ひと言。
『高橋先生、最初に言っておきますが、このお店は、どうも日本人には挑戦的な日本食レストランのようです、お気を付けて。』
?? 続けてその弁護士さんは語り始めます。
■こちらお店、御覧のとおり、ローカルにめちゃくちゃ受け入れられている日本食レストランであるものの、どうも日本人にはあまり受けが良くないらしい。
■その理由は、あまりに日本人の思う「あるべき日本食(味付け・ビジュアルを含む)」からかけ離れた料理を、さも「これが日本食やで」と何ら躊躇なく、堂々と出してくるから、らしい。
■ここからは、私(※オーストラリアの弁護士さん)の完全な私見だが、どうも、この店の「Cho Cho San」は、かの有名なプッチーニのオペラ「蝶々夫人」(Madama Butterfly)から来ているのではないか。
■というのも、オペラ蝶々夫人を制作したプッチーニ、そして小説・蝶々夫人の原作者(※後日、高橋の調査では、アメリカ人の弁護士ジョン・ルーサー・ロングという方)は、当時、いずれも一切日本に実際に行ったことがないにもかかわらず、親族から聞いた話やその他世の中で出回っている「ニホン」のイメージ等で蝶々夫人を書き上げて(制作して)しまった、と言われている。
■それにもかかわらず、蝶々夫人は、当時の欧米の「ニホン」へのイメージ・期待と裏切らない内容であったため、大ヒットし(※ただし、公開初期は、イマイチ評判が悪かったらしい)、今なお著名な作品で世に感動を送り続けている(※ちなみに高橋は、恥ずかしながら、このオペラ作品自体を知りませんでした・・)。
■ただ、その時代の蝶々夫人は、当時の日本人からすると、「いや、そんなん日本(日本人)ちゃいますから・・」と突っ込みたくなる部分が盛りだくさんであった、とのこと。
■もしかしたら、このCho Cho Sanのレストランオーナーも、そこまで理解して、レストラン名を付け、挑戦的な日本食(?)を出しているんじゃないか・・、そしてオペラ蝶々夫人と同様、ローカルのオージーの求める日本食に見事にfine-tuneし、ここまで繁盛しているのではないか・・。
■もしそうだとしたら、今日、我々は、この時代を超えた日本人への挑戦に、どう立ち向かうべきなのか・・、趣深い戦いが今口火を切られた・・。
シドニー滞在初日から中々ヘビーな任務を任されたわけですが(※滞在初日の夜の会食がこのCho Cho Sanでした)、私個人は、凄まじく面白みを感じたため、どんな料理が出てくるか、固唾をのんで待ち構えました。ちなみに、この機会に、Cho Cho Sanを丸裸にするため、我々は、お任せのコースを注文。
ここから一品ずつ紹介して、いかにCho Cho Sanが挑戦的なお店であったかを暴けばよいのですが、高橋の語彙力不足で、間違いなく伝わらない食レポになるため、結論だけお伝えすると、
<シドニーの弁護士さんの推測は、正しかった(我々2名の主観的結論)>
です。
例えば、最初に出てきた枝豆は、よく分からない出汁が染み入って、味わったことのない風味で、かつ表面には、ねちっこく、やや大きめに切られた刻み海苔がご丁寧に付けられています。
一回一回食べるたびに、まあ、手が汚れること。
しかも、おしぼりも出さないし。
お蔭で膝にかけていたエプロンが、序盤から海苔まみれになってもうたやないか。
その後も比較的挑戦的なお品が続きますが、他方で、憎たらしい(?)ことに、「お、これは、日本でも全然出るな・・」というお口直しの一品(以下「愛嬌一品」といいます。)も出してきます。
「やはり、このお店、一癖も二癖もあるわい」と日豪の弁護士2名の眉間のしわが、いよいよ深くなり出した最後、デザートが2品出されました。
1品目、雪見大福のような食感のものに抹茶をコーティングさせたものが出てきました。
これは、いわゆる愛嬌一品です。
2品目、比較的大きめのカップに入った、プディングのようなもの。
「おぉ、これは、プディングやな。まあ、日本の伝統的なデザートでもないが、よしとするか」
と思って一口。
日豪の弁護士2名は表情を強張らせました。
「なんじゃ、これ・・」
プディングのようなものの上に薄くかけられていたもの、これは、カラメルソースか何かだろう、と思っていたのですが、むちゃくちゃしょっぱいやないか・・。
おそらく、味噌です・・。
「いや、日本で味噌、絶対こんな風に使わんからな!!」
シドニーの弁護士さん曰く、どうやらオーストラリアの伝統的な調味料にベジマイト(Vegemite)なるものがあるようで、それと似ている味付けや・・とのことです(※備考:その後、同弁護士さんから、ご丁寧にベジマイトを豪州土産で頂きました・・。)。
ということで、「伝統文化と多様性の調和」の難しさと学ぶとともに、“We need to think out of the box when we try to do something new“に改めて気づかされたシドニーの初日となりました。
ちなみに、後日、このCho Cho Sanをリサーチしたところ、やはりお店のオーナーは、オペラ蝶々夫人から命名した、とのことです。
そして、このオーナー(オージー2名のようです)は、日本を訪問して(ここは、我々の推測は外れ)、日本の居酒屋にinspirationを感じて、日本食を意識したレストランを始めたようです。
ちなみに、Cho Cho Sanのお店の内装は、以下のような感じで、何一つ、居酒屋を想起させるものはありません。ていうか、まずはおしぼり出るやろ、居酒屋。
【上記写真は、https://www.opentable.com.au/r/cho-cho-san-potts-pointより引用】
さて、最後に、「じゃあ、もう二度と行かないのか」ですが、誠に遺憾ながらリピ決定です。
枝豆も含め、味はめちゃくちゃ美味しかったんです・・。お店を出た我々は、満面の笑みを浮かべながら、再訪を固く誓い合って、家路についたのでした。
またシドニー訪問が待ち遠しいです。
最後の最後に、全く話が変わりますが、Martin placeは、やはり「シドニーに来た」と思わせてくれる場所でした。もう少しで駅ビル(?)が完成するらしい(といいつつ、かなり前から工事していますが)。
追伸 日本のクライアント、関係者の皆様、この1週間、ご迷惑をおかけしたこともあったかと存じます、誠に申し訳ございませんでした。
弁護士 高橋 健
【本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。】