オーストラリア遺言・相続法務(10)-Statutory declaration-
1.Statutory declarationとは
今回は、日本ではあまり馴染みのない、Statutory declarationというものを取り上げてみたいと思います。
日本語的には、誓約書や宣誓書といった表現になるかと思いますが、どのような場合に使われるか、という観点から、このStatutory declarationをご紹介しようと思います。
日本の銀行に預貯金を持つ方が亡くなられて、日本国内で相続手続きが発生したとします(遺言書なしのケースを想定)。
そして、法定相続人の一人に海外居住者の方がいた場合、通常、日本の銀行は、その相続人の方には、印鑑証明書の代わりにサイン証明書の提出を求めます。
この海外居住者の方が日本人の方であれば、在外公館(例えば、QLD州であれば、在ブリスベン日本国総領事館)でサイン証明書を発行してもらうことが可能ですので、それほど問題は生じません。
それでは、この海外居住者の方が日本人ではなく、純粋なオーストラリア人の方であれば、どうでしょうか。
例えば、日本人の配偶者と結婚し、その配偶者が日本国内に預貯金をもったまま亡くなったようなケースが考えられます。
当職の拙い経験によれば、オーストラリア人の方がサイン証明書を取得することは難しく、そのため、日本の銀行での相続手続きが行き詰まってしまいます。
そのような場合にサイン証明書の代替書類の一つとなりえるのが、Statutory declarationとなります。
つまり、Statutory declarationにおいて、「このStatutory declarationにサインしたのは自分であること」や、「●●というドキュメントにサインしたのは、自分であること」などの事実を記載し、後述する法律(Oaths Act 1867等)に従ったフォーマットで作成し、それを日本の銀行にサイン証明書の代わりに提出する、という方法がありえる、ということになります。
但し、あとでも述べる通り、日本の銀行全てが、このStatutory declarationをサイン証明書の代替書類として認めてくれるかは不透明ですので(少なくとも日本の法律でそのようなことが定められているわけではない)、事前に各銀行と確認・折衝する必要があります。
2.Oaths Act 1867
QLD州において、Statutory declarationを作成する場合、Oaths Act 1867という法律に基づき行われることが通常のようです。
このOaths ActのPart 4が「Statutory declarations」となっており、「Who may take declarations」(第13条)や「Form of declaration」(第14条)などが定められています。
Oathsとは、誓いや宣誓などという意味があり、Statutory declarationもこの法律の中に組み込まれているわけです。
上記1で記載したとおり、このStatutory declarationでは、宣誓する者が特定の事実関係を誓約するものですが、法律で決まったフォーマットに従えば、一人で勝手に作成できるのかというとそうではなく(さすがにそれでは、信憑性に欠けますよね・・)、法律で認められたnotary public(公証人)や、lawyer(オーストラリアの弁護士)など有資格者の立ち会いのもと、その面前で行われる(作成される)必要があり(Oaths Act 1867 第13条)、かつその有資格者の方の署名もなされることが一般です。
したがって、Statutory declarationを作成する場合には、通常、オーストラリアの弁護士の方などに作成依頼をすることになります。
なお、Statutory declarationは、署名(サイン)に関する宣誓のみに限定されず、その他の事実関係の宣誓・誓約にも利用されます。
3.事前に提出先の機関に連絡・交渉(説明)すべし
以上、ごくごく簡単ですが、Statutory declarationについて、ご紹介してみました。
このStatutory declarationを定めた法律は、州法であるため、各州に上記Oaths Act 1867のような法律があるようです。
また、当職が調べたところでは、Commonwealth ActとしてStatutory Declarations Act 1959というものも見当たりました。
これらの法律の関係性等については、今後、当職自身でリサーチを重ねるとともに、オーストラリア弁護士の先生方からお知恵を拝借し、研鑽に努めたいと考えています。
今回、Statutory declarationの活用場面をサイン証明書の代替書類としてご紹介しましたが、日本の銀行すべてが、このような代替書類を認めてくれるかは、銀行内部の運用という色彩が強い以上、不透明です。
そのため、具体的な相続手続きの場面に遭遇したら、その都度、事前に、銀行のご担当者にオーストラリアの法制度等を説明し、折衝のうえ、理解を求めていく必要があります。
そして、このStatutory declaration自体、オーストラリア法に基づいたものですし、上記の通り、その作成にはオーストラリアの弁護士の先生の協力が必要不可欠と考えられますので、当職がStatutory declarationの作成等を検討する際には、必ず提携先のオーストラリア弁護士の先生にご相談・依頼をするようにしております。
そのようなオーストラリアの先生の協力を得ながら、我々日本の弁護士の役割である、日本の銀行のご担当者への説明や折衝・説得作業を進めていく、というイメージです。
本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。
【弁護士 高橋 健】