オーストラリア遺言・相続法務(11)-COVID-19: video tech for witnessing legal documents-
1.新型コロナウィルスとnew regulation
先日、オーストラリア現地の弁護士とメールで近況報告をし合う機会がありました。
現在、世界中で新型コロナウィルスが引き続き猛威をふるっていますが、オーストラリアでは、コロナ対策として、時限立法を含め、多くのnew regulationが制定・発令しているようです。
オーストラリアは、連邦法に加え各州が制定する州法が存在し、それがカバーできる範囲も比較的広いことなど、そもそも法制度上、日本と異なる部分が多いですが、それでも、その動きの迅速性・柔軟性は、日本では見られない、目を見張るものがありました。
それが、オーストラリアのお国柄なのか、それともオーストラリアが独自というわけではなく、比較対象である日本が特別なのかはさておき、今回は、そのような新たな制度のうち、法律文書におけるビデオ通話を通じた証人につき、アウトラインをご紹介しようと思います。
2.オーストラリアにおけるWitnessとソーシャルディスタンス
オーストラリアでは、Wills(遺言)や、powers of attorney、Affidavit、statutory declarationsといった法律上の文書において、厳格な要件のもと、遺言者・宣誓者の署名等につき、それが確かに証人の面前でなされたこと等が求められています。
もっとも、面前となると、直接会うことが求められ、現状のコロナ禍におけるソーシャルディスタンスの要請と相反する場面が出てきます。
そこで、オーストラリアの各州では、そのFace-to-Faceの面前要件につき、ビデオ通話等で代替できる緩和措置を導入しているようです。
例えば、NSW州では、上記の規制緩和措置として、元々存在していた、Electronic Transactions Act 2000という法律を一部修正する形で、Electronic Transactions Amendment (COVID-19 Witnessing of Documents) Regulation 2020という新ルールを2020年4月22日に発表しました。
これまで厳格な要件として求められていた上記の面前要件が、4月22日というスピード感で規制緩和が具体的に発表されたことについては、オーストラリアの弁護士も(良い意味で)驚いていました。
この新ルールでは、もとのElectronic Transactions Act 2000のClause8の後に、Clause8A COVID-19 response という条項を新たに挿入し、そこでSchedule 1(これも新設)を引用しています。
そして、そのSchedule 1では、audio visual linkの定義や、今回の対象となるDocumentの範囲(Willsなど)、そしてAudio visual linkを用いて確認する証人が遵守しなければならない事項等が、比較的詳細に定められています。
3.終わりに
この新ルールは、一応、一時的な措置であり、2020年9月26日までとされているようです。
しかしながら、現実的には、それまでに今回の新型コロナウィルスが一応の収束をするとは少々考えにくく、延長される可能性もありそうです。
意見交換したオーストラリア現地の弁護士さんの個人的意見としては、もともとこの厳格な面前要件は、オンライン面談等のIT技術が普及した現代において、なんとも古めかしく、融通のきかない仕組みと受け止めていたようで、「今回のnew regulationが、このまま、一般化してくれないかな・・」とボヤいていました。
本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。
【弁護士 高橋 健】