オーストラリア法務をトータルでサポート

オーストラリア遺言・相続法務(12)- 日本とオーストラリア両方に資産を保有する場合(2) –

弁護士 髙橋健

 

1.日豪それぞれの遺言書作成を検討すべきシチュエーション

 

 

 

 

以前のコラム『オーストラリア遺言・相続法務(3)-日本とオーストラリア両方に資産を保有する場合-』でご紹介した通り、日本人の方が日本と豪州、それぞれに資産を有している場合、将来、遺言をスムーズに執行すべく、原則として、日本と豪州それぞれの方式で遺言書を作成すべき、という話をさせて頂きました。

 

 

今回は、その例外として、日本の遺言書(公正証書遺言)で豪州の資産もフォローすべきと考えられる事例をご紹介します。

 

 

2.豪州所在資産を含めた日本の遺言書を作成すべきと考えられる場合

 

 

 

 

結論として、日本人(日本国籍)の方が、日本にいながら、日本とオーストラリアそれぞれにある資産を対象とした遺言書を作成する場合で、かつオーストラリアの資産に不動産がない場合(例:オーストラリアの資産は、預貯金のみ)は、注意が必要となります。

 

この問題は、日本の法律に従った検討と、オーストラリアの法律に従った検討、どちらも必要と考えられることから、以下、それぞれの視点から検討を加えます。

 

 

(1)日本の法律に従った検討

 

 

まず被相続人となる方が日本国籍である場合、その方の相続や、遺言書の成立及び効力に関しては、日本の法律(法の適用に関する通則法)に従えば、日本法をもって処理(解釈・適用)されることとなります(法の適用に関する通則法第36条及び第37条第1項)。

 

 

そして、遺言書が法的に有効となるためには、各国それぞれで独自の方式が法律で定められていることが多いところ、その遺言書の方式に関する問題(どのような方式で遺言書が作成されなければならないか(法的に有効とならないか)という問題)は、日本法(遺言の方式の準拠法に関する法律)に従えば、以下の通りとされています。

 

(準拠法)
第二条 遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。
一 行為地法
二 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
三 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
四 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
五 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

 

 

以上を踏まえると、日本国籍で日本に居住している方が、豪州所在の財産をも対象とした日本法(民法)の方式に従った遺言書(例:遺言公正証書)を作成した場合、その遺言書は、日本法の観点からは方式において有効といえます。

 

他方で、豪州法(例:SUCCESSION ACT 1981 (QLD))に従った遺言書は、当該遺言者が豪州に預貯金のみしか有していない場合(豪州に不動産を有していない場合)、遺言の方式の準拠法に関する法律第2条の1~5号いずれにも適合しない可能性が高く、日本法の観点からは方式に関して有効とはいえない可能性が高いといえます。

 

そのため、仮に当該相続が日本の裁判所で争われた場合、日本の裁判所は、この豪州法に従った遺言書につき、日本法の観点から方式において有効とは判断せず、そのため、当該豪州法に従った遺言書の対象となっている豪州の預貯金は、遺言書がない状態下の遺産とみなされ、この部分に関しては法定相続分に従った遺産分割がなされるべき、との判断が下される可能性があると考えられます。

 

 

(2)オーストラリアの法律に従った検討

 

それでは、オーストラリアの法律の観点から考えた場合でも、豪州に預貯金のみしか有していない日本在住の日本国籍の方の場合、豪州法ではなく日本法に従った遺言書を作成すべき、という帰結になるでしょうか。

 

 

 

以前のコラム『オーストラリア遺言・相続法務(3)-日本とオーストラリア両方に資産を保有する場合-』でも言及した通り、オーストラリアも、日本と同様、「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」(the Hague Convention of 1961 on the Conflict of Laws Relating to the Form of Testamentary Dispositions)に批准し、それに沿った豪州国内法を有しています。

 

QLD州を例にとると、SUCCESSION ACT 1981(QLD)の33T条”Wills that are taken to be properly executed”がそれにあたると考えられます。

 

そして、その33T条の内容は、先ほど見た日本の「遺言の方式の準拠法に関する法律」の内容と類似したものとなっており、そのため、今回前提としている事実関係(日本に居住している日本国籍の方が、豪州に預貯金しか有していない(不動産を有していない)ケース)では、仮にその遺言の対象を「豪州国内の預貯金のみ」と限定したとしても、豪州法の方式に従った遺言書では有効な遺言書にならない可能性があります。

 

 

豪州法に従っても有効な遺言書とならない以上、いくら「豪州国内の資産(預貯金)」のみを対象とし、かつ豪州国内法に沿った方式で作成された英語の遺言書であっても、いざ遺言者の方が亡くなり、豪州国内でその遺言書を執行しようとしても、うまく執行ができず、結果として、豪州国内の資産を相続できない可能性があります。

 

 

そのため、このようなケースでは、将来、遺言書を執行してオーストラリア国内の預貯金の相続手続きをする際、英訳等の手続上の煩雑さが生じてしまうものの、日本法の方式に従った遺言書(遺言公正証書等)でオーストラリア国内の財産(預貯金)についても遺言作成すべき、ということになろうかと考えられます。

 

勿論、日本在住で日本国籍の方が、実際にオーストラリア現地に行き、そこで豪州法の方式に従った遺言書を作成すれば、適法な(豪州国内で執行可能な)遺言書となります(SUCCESSION ACT 1981(QLD)の33T条の(1)(A)参照)。

 

ただ、昨今の新型コロナウィルスの影響で、日本からオーストラリアに渡航しづらい状況にあるため、オーストラリア現地で遺言書を作成しない場合には、注意を要することとなります。

 

 

 

以上、今回は簡単ではありますが、オーストラリアにある資産(預貯金等)を含めた日本の遺言書を作成すべきと考えられる場合をご紹介しました。

 

 

【本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。】

 

 

弁護士 高橋 健

 

弁護士 髙橋健 のその他の専門知識