オーストラリア遺言・相続法務(3)-日本とオーストラリア両方に資産を保有する場合-
1.日本とオーストラリア両方に資産を持っている場合、どちらか一方の国で遺言書を作成すればよいか?
日本あるいはオーストラリアに居住している日本人の方で、日本とオーストラリア双方に不動産等の資産を保有しているケースをよく目にします。
このケースで実際に相続が発生した場合、不動産の名義変更等の相続手続きは、日本及びオーストラリア両方で行う必要がありますが、その際、日本又はオーストラリアどちらかで全ての資産を対象とした遺言書を作成していれば、問題ないのでしょうか。
2.法律的な仕組みについて(遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約)
まず法律的な仕組みを見てみましょう。
例えば、オーストラリア在住の日本人の方が、オーストラリアにおいて、オーストラリア現地の法律に基づく方式により日本の資産も含めた遺言書を作成していた場合、その遺言書の方式は、日本国内においても原則として有効とされます。
つまり、日本法ではなくオーストラリア法に従った方式であるからとって、無効な遺言書とは判断されません。
その根拠は、日本が「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」に批准し、それを受けて国内法として「遺言の方式の準拠法に関する法律」を制定しているからです。
他方、オーストラリアにおいても、日本同様、「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」に批准しているため、オーストラリア国内において、オーストラリア法ではなく日本法に従った方式であるからといって、直ちに無効な遺言書とは扱われません。
以上からすると、日本とオーストラリア双方に資産を有する日本人の方は、日本あるいはオーストラリアどちらかの国で、その国の法律に従った方式で全財産を対象とする遺言書を作成しておけば、特に問題はないようにも思われます。
3.それでも実務上は、資産所在国の法律に基づいた遺言書を作成していることが多い
ところが、実務上は、資産が存在する日本及びオーストラリアそれぞれの法律に基づき、2つの遺言書を作成していることが多いです(少なくとも弁護士等の専門家は、そのようにアドバイスする傾向にあります)。
つまり、日本及びオーストラリアそれぞれで作成した遺言書には、「私が日本国内(オーストラリア国内)に所有する不動産・動産・その他一切の資産にのみ、この遺言書を適用する」という文言が明記されることが多いです。
その理由の一つには、実際の手続の煩雑さがあげられます。
例えば、オーストラリアの資産を含む全財産を対象とした日本の公正証書遺言のみが作成されていた場合(オーストラリア法に従った方式での遺言書が作成されていなかった場合)、その公正証書遺言を使ってオーストラリア国内で相続手続(Probate)を行おうとすると、その公正証書遺言が日本法に従った方式で作成され法的に有効なものであることを記載した、日本の弁護士名義での意見書(英文)のようなものが求められたりします。
また、オーストラリア法に従った方式での遺言書(英文)しか存在しない場合も、それを用いて例えば日本国内の金融機関で預金の解約払戻し等の手続をとることになりますが、それで全ての金融機関においてスムーズに手続が進むかどうか、定かではありません。
このような理由から、弁護士等の専門家が関与した実務では、通常、日本国内の資産に関しては日本の公正証書遺言を、オーストラリア国内の資産に関してはオーストラリア法に従った方式の遺言書を、それぞれ作成することが推奨されています。
当事務所においても、業務提携先のオーストラリア国内(クイーンズランド州)の法律事務所様と連携して、リーズナブルな価格で、日本の法律に従った方式での遺言書(公正証書遺言等)と、オーストラリアの法律に従った方式での遺言書の作成を、それぞれサポートしております。
もし日本とオーストラリア双方に資産をお持ちの方で、それぞれの国で遺言書を作成されたい場合は、どうぞお気軽にお声掛け下さい。
本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。
弁護士 高橋 健