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オーストラリア遺言・相続法務(6)ー日本の不動産の登記名義の変更手続きー

弁護士 髙橋健

 

1.オーストラリア国籍の方が登記名義人となっている不動産の注意点

 

 

以前、『オーストラリア遺言・相続法務(5)-オーストラリア人が日本国内で遺言書を作成する方法ー』でも記載しましたが、オーストラリア国籍の方が日本国内の資産を対象に公正証書遺言を作成することがあります。

 

つい先日、東京で国際税務案件を専門的に扱っていらっしゃる税理士の先生とお会いし、国際税務・法務案件につきお話したところ、その先生の感覚としても、そのような「外国人の方を遺言者あるいは被相続人とする日本国内での遺言・相続案件」は、近年、増加傾向にあるようでした。

 

 

そのような場合の注意点として、遺言書に関しては「オーストラリア遺言・相続法務(5)」で概要をご説明しましたが、今回は相続手続き、そのうちでも「オーストラリア国籍の方が登記名義人となっている不動産の移転登記手続き」に関する注意点の一つを、以下、簡単ではありますが記載したいと思います。

 

 

 

2.オーストラリア国内の親族の有無・所在を把握しておくとともに、相続が開始すれば速やかに移転登記手続を行うこと

 

 

まず以下では、オーストラリア国籍の方が、日本国内の資産(不動産等)に関し、遺言書を作成することなく亡くなってしまった場合を念頭においてお話します。もし適正な遺言書を作成していれば、以下のような問題は発生しないことが通常です(ですので、結局は、日本国内で不動産等の資産を保有している場合は、必ず遺言書を作成しましょう、ということになります。)。

 

 

 

日本に居住するオーストラリア国籍の方が日本人の方と婚姻したものの、お子様がいない状況で亡くなられたとします。

そして、このオーストラリア国籍の方が日本国内に不動産を所有していたとします。

 

この場合、法定相続人である配偶者が、日本の法務局において相続を原因とする所有権移転登記手続きを行おうとすると、他の法定相続人の有無や、仮に存在する場合は、その者の署名等が必要になることが一般です。

なお、この場合、日本とオーストラリアどちらの法律に準拠して法定相続人等を決定するのか、という準拠法の問題がありますが、詳細はまた別の機会にご説明するとして、ここでは、日本国内の不動産に関する日本国内での相続手続きが問題となることから、一先ず日本法を準拠法として考えることとします。したがって、法定相続人は、配偶者と被相続人の両親、配偶者と被相続人の兄弟、または配偶者のみ、ということになります。

 

 

仮に配偶者が、オーストラリア国籍の被相続人の両親あるいは兄弟の情報(居住地など)を把握していれば、あとはその者らからサインを取得する等、日本の法務局が求める手続きを実践していけばよいこととなります(ただ、それらの親族がオーストラリアに居住している場合は、手続きが煩雑となりがちですが)。

 

他方で、仮に配偶者がそれらの情報を把握していなければ、被相続人が亡くなった後、その親族(両親や兄弟)を探すことは、とても困難となります。なぜならば、オーストラリアには、日本の戸籍制度がないため、役所から発行される何らかの公的資料で容易に法定相続人を調査することができないためです。

 

そして、そのような法定相続人の調査は、月日が経てば経つほど、より一層困難になることが通常です(オーストラリア在住の他の法定相続人が死亡したり、転居したりするため)。

 

 

そのため、オーストラリア国籍の方が不動産の登記名義人となっているような場合、配偶者は、相続が開始する前から、しっかりとオーストラリア国内の親族の情報をアップデートしておくことが肝要となりますし、また相続が開始した場合には、出来る限り速やかに登記名義人の移転登記手続きを実施すべきといえます。

 

 

3.小括

 

 

以上、オーストラリア国籍の被相続人が不動産の登記名義人となっている場合の注意点の一つをご説明しました。

 

ただ、繰り返しで恐縮ですが、上記のような問題が顕在化しないためにも、日本に資産を保有しているオーストラリア国籍の方は、出来る限り生前に遺言書を作成しておくべき、といえます。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

弁護士 高橋健

 

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