オーストラリア遺言・相続法務(9)-豪州の相続制度と日本の相続法分野改正との類似点-
1 NSW州の法定相続分と、配偶者居住権について
以前、シドニーの弁護士さんと相続制度につき、お話する機会がありました。
シドニーを含むNSW州の相続法(SUCCESSION ACT 2006)では、亡くなった被相続人の配偶者と、その配偶者との間の子供のみが存在する場合、遺言書がなければ、すべての遺産は配偶者に相続されます(SUCCESSION ACT 2006 – SECT 112)。
日本では、2分の1が配偶者、残りの2分の1が子供に相続されますので、ここは日本の相続制度と大きく異なります。
そのため、私がそのことを指摘したところ、そのシドニーの先生は、「日本の法定相続分だと、配偶者は、それまで被相続人と一緒に自宅に住んでいたとしても、相続の結果、その自宅に住めなくなる可能性があるんじゃないか?それは、配偶者がかわいそうじゃないかな?」という趣旨のことを仰っていました。
日本の法定相続分の決まり(配偶者2分の1、子供2分の1)に長らく慣れ親しんでいたことと、日本の判例法理によってそういった不都合は最低限フォローされる方法が一応整備されていることから、その時の私は、正直、そのシドニーの先生の発言に、そこまでピンと来ていませんでした。
今回、平成30年7月に日本の相続法分野が大きく改正されました(施行日はまだ先ですが)。
そのうちのひとつの目玉として、「配偶者居住権」なるものが創設されます。
この配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合に、終身または一定期間、その建物を無償で使用することができる権利です。
まさに、上記のシドニーの先生が述べていた問題点が立法的に解決された形となります。
2 NSW州のFAMILY PROVISION制度と、被相続人の親族の相続人に対する金銭請求制度について
次に、オーストラリアでは、日本の遺留分に類似する制度として、FAMILY PROVISION制度があります(ただし、裁判所への申立が必要であるなど、かなり異なる部分も多いです。詳細は、本コラム『オーストラリア遺言・相続法務(8)ー遺留分&Family Provision制度ー』をご参照ください)。
このFAMILY PROVISION制度は、日本の遺留分のような機能を有するだけでなく、例えば相続人以外の者で、生前、被相続人の面倒を見ていた扶養家族・同居人のような方を保護する機能もあると考えられています(本来は、このような方は相続人ではないため、遺言書がない以上、一切保護されないことになりかねないところ、それを是正する機能を有する、といった感じでしょうか)。
このFAMILY PROVISION制度は、相続人以外の親族のみならず、全く血縁関係の無い方であっても、必要な要件を具備すれば、クレーム権を有すると考えられており、非常に間口が広いといえます。
現在、日本には、基本的にはこのような制度は存在しないと考えられますが、先述した相続法分野の改正により、それに近い制度が創設されます。
すなわち、相続人ではない親族(例えば子の配偶者など)が被相続人の介護や看病に貢献し、その結果、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合には、相続人に対し、金銭の請求をすることができるようになります。
これは、「親族」という要件があるものの、上記FAMILY PROVISION制度と同様の機能を今後発揮することが期待されるといえるでしょう。
以上、今回は、今般の日本の相続法分野の改正と、NSW州の相続法の制度の類似点という、およそ誰も着目しないであろう非常にマニアックな視点から、コラムを書いてみました。
本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。
弁護士 髙橋 健