婚姻費用分担の申立てにかかる調停又は審判の係属中に離婚が成立した場合に、離婚成立時までの過去の婚姻費用分担請求権が当然に消滅するか否か(申立てが不適法となるか否か)

婚姻費用・養育費

1 はじめに

婚姻費用分担の申立てにかかる調停又は審判の係属中に離婚が成立した場合に、離婚成立時までの過去の婚姻費用分担請求権が当然に消滅するか否か(申立てが不適法となるか否か)という問題があります。

この点については従前から消滅するという立場と存続するという立場の両説がありました。

2 札幌高判平成30年11月13日

この点について、札幌高判平成30年11月13日は下記のとおり判断し、離婚により婚姻費用分担請求権が消滅すると判断しました。

「婚姻費用分担請求権は婚姻の存続を前提とするものであり,家庭裁判所の審判によって具体的に婚姻費用分担請求権の内容等が形成されないうちに夫婦が離婚した場合には,将来に向かって婚姻費用の分担の内容等を形成することはもちろん,原則として,過去の婚姻中に支払を受けることができなかった生活費等につき婚姻費用の分担の内容等を形成することもできないというべきである。そして,当事者間で財産分与に関する合意がされず,清算条項も定められなかったときには,離婚により,婚姻費用分担請求権は消滅する。」

3 上記高裁判例を覆した最高裁判例

これに対し、最判令和2年1月23日は以下のとおり原審を破棄し、差戻しました。

「民法760条に基づく婚姻費用分担請求権は,夫婦の協議のほか,家事事件手続法別表第2の2の項所定の婚姻費用の分担に関する処分についての家庭裁判所の審判により,その具体的な分担額が形成決定されるものである(最高裁昭和37年(ク)第243号同40年6月30日大法廷決定・民集19巻4号1114頁参照)。また,同条は,「夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定しており,婚姻費用の分担は,当事者が婚姻関係にあることを前提とするものであるから,婚姻費用分担審判の申立て後に離婚により婚姻関係が終了した場合には,離婚時以後の分の費用につきその分担を同条により求める余地がないことは明らかである。

 しかし,上記の場合に,婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由は何ら存在せず,家庭裁判所は,過去に遡って婚姻費用の分担額を形成決定することができるのであるから(前掲最高裁昭和40年6月30日大法廷決定参照),夫婦の資産,収入その他一切の事情を考慮して,離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定することもできると解するのが相当である。このことは,当事者が婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求をすることができる場合であっても,異なるものではない。

 したがって,婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても,これにより婚姻費用分担請求権が消滅するものとはいえない。」

このことから、最高裁は、離婚後も離婚時までの過去分の婚姻費用分担請求権は存続するとの見解を明確にしたといえます。

4 最後に

婚姻費用に関しお悩みの方は、一度専門家にご相談されることをおすすめします。

 

 

弁護士: 伊藤由香