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医療法務の知恵袋

医療法務の知恵袋(19)【理事長には誰でもなれるのか?】

 

Question

 

今般,当医療法人では,高齢化のため,理事長の交代を検討していますが,医療法人の理事長には,誰でもなれるのでしょうか。

 

 

 

1 医療法人の理事長は,原則,医師または歯科医師しかなれない

 

 

医療法人の理事長は,理事の中から選任されることが一般ですが,その理事長には,理事からの選任という手続さえ踏めば,誰でもなれるのでしょうか。

 

この点について,医療法46条の3第1項本文は,「医療法人(次項に規定する医療法人を除く。)の理事のうち一人は,理事長とし,定款又は寄附行為の定めるところにより,医師又は歯科医師である理事のうちから選出する。」と定めています。

 

その趣旨は,「医師又は歯科医師でない者の実質的な支 配下にある医療法人において、医学的知識の欠落に起因し問題が惹起されるような 事態を未然に防止しようとするものであること」にあるとされています(昭和61年6月26日健政発第410号)。

 

したがって,医療法人の理事長には,原則,医師か歯科医師の先生でなければ就任することができないこととなります。

 

 

2 都道府県知事の認可を受けた場合は,例外的に医師等でなくても認められる

 

 

理事長は法人の代表者であるため,当然,その責任も重くなります。

 

そのため,そのような理事長に就任することに承諾する医師又は歯科医師の先生を見つけることに苦労する場合もあります。

 

そのような場合,医療法人は,都道府県知事の認可を受ければ,医師又は歯科医師の先生以外の方を理事長に就任させることが可能となります。

 

もっとも,認可を受けるにあたっては,一定のハードルが課せられており,決して簡単に認可が得られるわけではありません。

 

都道府県知事は,候補者の経歴,理事会構成(医師又は歯科医師の占める割合が一定以上であることや,親族関係など特殊の関係のある者の占める割合が一定以下であること。)等を総合的に勘案し,あらかじめ都道府県医療審議会 の意見を聴いたうえで,適正かつ安定的な法人運営を損なうおそれがないと認められる場合に,はじめて認可を行うものとされています(昭和61年6月26日健政発第410号)。

 

この点で参考になるのが,『厚生労働大臣所管医療法人にかかる「医療法人制度の改正及び都道府県医療審議 会について」(昭和61年6月26日付健政発第410号)通知第一の5の(4)の社会 保障審議会医療分科会における取扱いについて』(平成17年5月23日社会保障審議会医療分科会了解事項)です。

 

そこでは,例えば,以下の①~④のいずれかに該当する医療法人については,認可のために一般的に必要となる社会保障審議会医療分科会の意見を聞いたものとみなし,認可がなされやすい仕組みがとられります。

 

 

① 過去 5年間にわたって,医療機関としての運営が適正に行われ,かつ,法人と しての経営が安定的に行われている医療法人

 

② 理事長候補者が当該法人の理事に3年以上在籍しており,かつ,過去3年間に わたって,医療機関としての運営が適正に行われ,かつ,法人としての経営が安 定的に行われている医療法人

 

③ 医師又は歯科医師の理事が理事全体の3 分の2以上であり,親族関係を有する 者など特殊の関係がある者の合計が理事全体の3分の1以下である医療法人であ って,かつ,過去2年間にわたって,医療機関としての運営が適正に行われてい ること,及び,法人としての経営が安定的に行われている医療法人

 

④ 医療法第46条の3第1項の改正規定の施行日(昭和61年 6 月 27 日)におい て,すでに設立されていた医療法人については,次に掲げる㋐㋑のいずれかに該 当する場合

 

㋐ 同日において理事長であった者の死亡後に,その理事長の親族で,医師又は 歯科医師でない者が理事長に就任しようとする場合

㋑ 同日において理事長であった者の退任後に,理事のうち,その理事長の親族 であって医師又は歯科医師でない者が理事長に就任しようとする場合

 

 

3 小括

 

 

以上の通り,仮に医療法人の理事長に,医師又は歯科医師以外の者を就任させる場合には,都道府県知事の認可が必要であり,その認可を取得するためには,ある程度重い条件が課せられています。

 

そのため,理事長に医師等の先生以外の方がなろうとする場合は,ある程度慎重に考え,準備を進める必要があります。

 

 

(弁護士 髙橋 健)

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