医療法務の知恵袋(18)【社員による社員総会の招集の可否】

 

Question

 

私は,医療法人の社員ですが,現在の理事長に問題があると考えていますので,臨時社員総会を開催し,解任も含めて理事長の責任を検討したいと考えていますが,そもそも社員に総会の招集権限はありますか?

 

 

 

1 医療法人における社員総会の招集は誰が行うのか

 

 

医療法人の社員総会は,法人内部の重要な事項を決定する最高の意思決定機関として位置づけられます。

 

株式会社でいえば,株主総会に相当する機関とイメージして頂ければ分かりやすいかもしれません。

 

この社員総会の招集は,原則,理事長が行うこととされています(医療法48条の3第2項及び第3項)。

 

 

しかしながら,例えば,理事長に問題があり,その責任を問うために社員総会を招集するような場合,当然ながら,理事長自身は,自分の責任を追及されることを嫌がり,社員総会を招集することにも消極的となることが予想されます。

 

そのような場合,社員総会の構成員である社員に,社員総会の招集権限が認められるのでしょうか。

 

 

2 社員の総会招集権限について

 

 

上記のようなケースにつき,医療法は,特別の規定を置いています。

 

すなわち,医療法48条の3第5項は,「理事長は、総社員の5分の1以上の社員から会議に付議すべき事項を示して臨時社員総会の招集を請求された場合には,その請求のあつた日から20日以内に,これを招集しなければならない。」と定めています。

 

同様の規定は,医療法人の一般的な定款にもよく見受けられます。

 

もっとも,実務的には,理事長が,上記医療法48条の3第5項に定められている社員からの臨時社員総会の招集請求を受けたにもかかわらず,一向に社員総会を招集しない場合もあります。

 

そのような場合,理事長が法令に違反していることは明らかですが,それに加えて,社員は,自らが招集権者となって社員総会を招集することは可能でしょうか。

 

結論的には,医療法上,そのような場合の処理につき明確な記載は見当たりません。

 

この点について,例えば『会社法』や『一般社団法人及び一般財団法人に関する法律』では,社員は,裁判所の許可を得て,自らが総会を招集することができる,と定められています。(例えば,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第37条第2項第1号)。

 

そこで,医療法人においても,それらの法律の規定を類推適用する等により,社員が裁判所の許可のもと,社員総会を招集する方法が検討されます。

 

 

3 まとめ-定款を工夫する-

 

 

本知恵袋の(5)【解任された理事の残在任期の報酬金】でもお話した通り,医療法には,あくまで基本的事項しか定められておらず,それゆえ,当該個別具体的な事案に対応しきれないことがよくあります。

 

理事長が医療法48条の3第5項に違反して総会を招集しない,という今回のケースについても,医療法には個別具体的な規定が定められておりません。

 

 

そのため,各医療機関においては,そのような医療法の隙間を埋めるべく,決まりきった定款ではなく,医療法には規定がないものの実務上必要となり得る規定を,しっかり定款に定めておくことが重要となります。

 

 

 

弁護士 髙橋 健