医療法務の知恵袋(22)【医療法人における社員とは?】
Question
この度,私が院長を務めるAクリニックを医療法人化しようと考えています。
医療法人には,「社員」という概念があると聞きましたが,「社員」とはどのような地位の人のことをいうのでしょうか。
1 「社員」とは従業員のこと?
今回は,医療法人(※)の「社員」について,お話します。
「社員」と聞くと,一般的には,組織に属している(勤務している)従業員のことを思い浮かべる方も多いかと思います。
しかし,医療法人における「社員」とは,従業員とは全く異なります。
医療法人では,当該法人にとって重要な事項を決定する場合(例えば,定款(法人の基本的な内部ルールを定めた規則のようなもの)を変更する場合),社員総会を開催して,そこで決議を取ります。
この社員総会の構成員が「社員」となります。
したがって,医療法人における社員とは,実際に病院で働く従業員の方のことではなく(勿論,従業員の方が社員になることも可能ですので,その意味では従業員の中に社員という地位を有する方がいるケースもあります),医療法人の重要な意思決定機関(最高意思決定機関などと呼ばれます)である社員総会に参加して議決権を行使する方のことをいいます。
株式会社でいうところの「株主」が医療法人でいう「社員」,とご理解いただければ分かりやすいかと思います。
2 社員になるためには出資が必要?
それでは,社員になるためには,どうすればよいでしょうか。
社員になるための手続は,定款に定める事項とされていますが(医療法44条2項第8号),一般的な定款では,社員総会によって選任することとされています。
この点について,株式会社の株主とパラレルに考えると,社員になるためには,一定の金銭の出資が必要とも思えますが,実は医療法人における社員と出資者(基金拠出型医療法人の場合は基金)は別に考えられています。
したがって,医療法人では,社員になるものの,一切金銭的な支出をしないことも可能となります。ただし,一般的な事例では,出資(基金)を支出して社員になる方が多いように見受けられます。
3 議決権の数はどのように決まるのか?
上記2でお話した通り,社員は,特に金銭的な支出をせずともなることが可能ですが,そのような社員の方でも,金銭的な支出をした社員の方と同様に社員総会の議決権を有するのでしょうか。
答えは,Yesです。
医療法では,「社員は、各一個の議決権を有する。」(医療法46条の3の3第1項)と定められており,拠出の有無やその金額に関係なく,1人1議決権を有する建前をとっています。
そのため,そもそも一切基金を拠出していない社員の方も,拠出している社員と同様に,1議決権を有していると考えられます。
以上が医療法人における「社員」の概要となります。
実務上,問題となるケースとして,社員を辞める方が医療法人に対し,以前に拠出した基金を返還するよう求めるような場合もありますが,そのような返還請求が当然認められるのかという点も含めて,次回以降にお話できればと思います。
※今回は,基金拠出型の社団医療法人を念頭にお話します。なお,平成19年4月1日に施行された平成18年改正医療法下において,それ以降新設される社団医療法人は,持分のない社団医療法人となります。
(弁護士 髙橋健)