医療法務の知恵袋(20)【死亡診断書・死体検案書の区別】
Question
これまで全く当院を受診していなかった方が院外で心肺停止状態となり、救急で当院に運び込まれました。対応した医師が確認した結果、この方は、当院に運び込まれる前にすでに死亡していたものと判断されます。
このような場合、死亡診断書を作成してよいのでしょうか。それとも死体検案書を作成すべきでしょうか。
1 死亡診断書?それとも死体検案書?
患者さんが死亡し、そのために医師の先生方が死亡診断書等を作成しなければならない場面は、そう珍しいことではありません。
しかしながら、その場合、医師の先生方においては、死亡診断書を書くべきか、あるいは死体検案書を書くべきか、判断に悩むことがあります。
その一例としては、冒頭でご紹介した、それまで診療していなかった方が搬送された場合があげられます。
2 死亡診断書と死体検案書の区別
医師法第19条2項では、「診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会つた医師は、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。」と定められています。
そのため、医師の先生方は、死亡した方の診療または検案をした場合は、正当な事由のない限り、死亡診断書または死体検案書を作成しなければなりません。
また医師法第20条本文では、「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。」と定められています。
ここでは、医師が死亡診断書や死体検案書を発行する場合には、自らが診察または検案をしなければならないこと(無診察治療等の禁止)が定められていますが、いかなる場合に死亡診断書または死体検案書を作成すべきかについては、明確な定めがありません。
そこで参考になるのが、昭和24年4月14日医発第385号厚生省医務局長通知でして、そこでは「死亡診断書は、診療中の患者が死亡した場合に交付されるものである」と定められています。
そのため、死亡診断書とは、「診療中の患者が死亡した場合」に作成すべきものであり、診療中ではなかった患者が死亡した場合には、死亡診断書は書けないことが分かります。
また、上記昭和24年の通知では、診療中の患者が死亡した場合であっても、それが診療していた傷病と関連しない原因により死亡した場合には、死亡診断書ではなく死体検案書を作成すべき、とされています。
以上より、死亡診断書と死体検案書の区別は、以下の通り整理することができます。
◆『死亡者が診療中の患者であり、かつ、死亡の原因が診療に係る傷病と関連したものである場合』
⇒死亡診断書
◆『死亡者が診療中の患者ではない場合』または『志望者が診療中の患者であっても、死亡の原因が診療に係る傷病と関連しない場合』
⇒死体検案書
なお、「診療中の患者」にあたるかどうかは、主治医として自らの管理下にあった患者か否かによって決すべきと考えられており、最後の診察日からの時間経過によって一律に決められるものではないと考えられています。
3 受診後24時間を経過した患者が死亡した場合は死亡診断書は作成できない?
死亡診断書と死体検案書の区別は、上記2の通りですが、よく医師の先生方から質問を受ける事項として、次のようなものがあります。
「診療中の患者であっても、診療から24時間を経過していれば、死亡診断書は作成できない、という話を聞いたことがありますが、本当でしょうか」
これは、誤解です。
誤解の原因となっているのは、おそらく以下の医師法20条但書かと思われます。
医師法20条但書「但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」
ここでは、受診後24時間以内に死亡した場合は、改めて診察をすることなく死亡診断書を作成することができることが定められているのみであり、24時間経過後には死亡診断書が作成できないなどということは一言も記載されていません。
この点については、平成24年8月31日医政医発0831第1号厚生労働省医政局医事課長通知でも確認がなされており、「死亡後改めて 診察を行い、生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できる場 合には、死亡診断書を交付することができる」ことが明記されています。
4 まとめ
死亡診断書と死体検案書の区別は、以上の通りとなります。
今回のQuestionの事例では、「診療中の患者」とはいえませんので、死亡診断書ではなく、死体検案書を作成すべきと考えられます。
なお、厚生労働省が発行している「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」という資料が、死亡診断書と死体検案書の使い分けにつき表で分かりやすくまとめていますので、参考になろうかと思います。
(弁護士 髙橋健)