在日韓国人が日本の銀行等の日本国内支店で開設した預金口座に係る預金債権についての準拠法

第1 はじめに

 

家庭の法と裁判第26号(日本加除出版株式会社)に、表記の件に関する裁判例が紹介されていました(大阪高判平成30年10月23日)。在日韓国人の相続をめぐる興味深い事案です。以下では、事案の概要と裁判所の判断について簡潔にご紹介いたします。

 

第2 事案の概要

 

①被相続人の亡Aには、配偶者X、離婚したBとの子であるZ1~Z3(以下「Zら」といいます。)がいましたが、平成25年3月9日に死亡しました。

②配偶者のXは、同年4月24日、Y銀行に対し、亡AがY銀行の支店に有していた普通預金口座及び定期預金口座に係る預金について、各預金払戻請求権に基づき、相続開始時の残高の法定相続分相当額等の支払を求めて本件訴訟を提起しました。

③Y銀行は、平成26年1月20日、Zらに対し、②の各預金について、相続開始時の残高等の法定相続分相当額を払い戻しました。

④Y銀行は、平成26年4月8日、大阪法務局に対し、債権者不確知を理由として、XとZら各人を被供託者として、②の各預金について、相続開始時の残高等のXの法定相続分相当額を弁済供託しました(以下「本件供託」といいます。)。

⑤Zらは、本件訴訟に独立当事者参加し、Xに対しては、②の各預金債権(以下「本件預金債権」といいます。)についての準拠法は日本法であり、これを準共有するものであるとして、その各13分の3が亡Aの遺産であることの確認を求め、Y銀行に対しては本件供託が無効であることを前提に、X及びZらが本件預金債権の各13分の3の預金者であることの確認を求めました。

 

上記のような事案の概要の下で、本件預金債権の相続に関する準拠法が大韓民国(以下「韓国」といいます。)法か日本法かが、本件の主な争点となりました。

 

第3 裁判所の判断

 

大阪高等裁判所は、上記争点について、法の適用に関する通則法(以下、「通則法」といいます。)36条により、亡Aの本国法である韓国法が適用されるものと解するのが相当であると判断しました。その理由として、以下の点が挙げられています。

 

「本件の法的問題は、被相続人である亡Aの被告に対する本件預金債権が、相続により法定相続人である原告及び参加人らに承継取得されることを前提として……、その承継の形態について、可分債権であることを理由として、相続に際しては法定相続分に応じて当然に分割承継されるとされている他の可分債権と同様に、各人の法定相続分に応じて当然に分割されて各人に承継されるのか、普通預金債権及び定期預金債権の法的性質に由来する他の可分債権との相違点を理由として、他の可分債権とは異なり、法定相続分に応じて当然に分割されることはなく、共同相続人間の準共有という形態で承継されるのかという問題であって、結局のところ、相続を原因として共同相続人らが普通預金債権及び定期預金債権を承継する場合にいかなる形態で承継しているかという問題であるから、相続による遺産の所有形態に関わるものとして、相続の効果に関するものとして性質決定するのが相当であって、相続の効果について規定した通則法36条により準拠法を決するべきと解されるからである。このように解することは、共同相続した不動産に係る法律関係が共有になるかどうかについて、相続の効果に属するものとして、法例25条(通則法36条)によるべきとした最高裁平成6年3月8日大三小法廷判決・民集48間3号835頁の結論にも沿うものと解される。」

 

Zらは、上記争点に関し、「本件の法的問題を本件預金契約という法律行為の成立及び効力と性質決定し、通則法7条及び8条により準拠法を決すべき」という主張を行っていました。しかし、本判決は、「法律行為の成立には、意思表示の瑕疵の有無、瑕疵ある意思表示により無効となるか取消可能となるか、法律行為が内容に照らして有効かといった点まで、法律行為の効力には、権利義務の具体的内容、何が債務の本旨に従った履行とされるか、義務違反の効果、解除の可否、損害賠償の範囲といった点まで、それぞれ幅広く含むものと解されるが、預金契約の締結によって発生した預金債権が、預金者に相続が発生した場合に相続人らにどのような態様で承継されるのかという本件の法的問題は、預金契約及びそれにより発生した預金債権の効力の問題ではなく、上記の通り、相続による遺産の所有形態の問題と捉えるのが相当である。」と判示し、Zらの主張を排斥しました。

 

第4 コメント

 

前述の家庭の法と裁判第26号(日本加除出版株式会社)80pでは、「相続準拠法が韓国法なる遺産分割調停においては、現に存在する預貯金債権について、大法院判例を踏まえ、相続人から分割の対象としないという積極的な申し出がない限り、そのまま分割対象に含めて手続を進めている例が多いと思われ……、家裁実務に大きな影響はないだろう。」とされています。

 

ただし、準拠法が韓国法となる場合、日本民法の相続法改正により新たに設けられた預金に関する規定(遺産分割前における預貯金の払戻し制度、遺産分割前における預貯金の仮分割制度等)が適用されないという点には注意が必要です。

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