被相続人が韓国籍の場合における相続放棄の注意点

第1 はじめに

他の投稿でも触れていますが、被相続人が韓国籍の場合、相続人が日本国籍であっても、相続については韓国の民法が適用されることとなります。被相続人に多額の債務がある等の理由で相続人が相続放棄を行う場合も同様です。以下では、被相続人が韓国籍の場合において相続人が相続放棄を行う場合の注意点について簡略に述べます。

第2 日本の家庭裁判所で相続放棄ができるか、その場合韓国国内でも効果が認められるか

被相続人が韓国籍の場合であっても、被相続人が日本に居住していた場合は、日本の家庭裁判所にて相続放棄の手続を取ることができます。

ここで、日本の家庭裁判所で行った相続放棄の手続について、韓国国内でも効果が認められるかという問題があります。

これについて、韓国国内にある不動産の相続登記について、日本に居住する相続人の一人が、日本の家庭裁判所において行った相続放棄の効力を認めたものがあります(制定1999年7月19日登記先例第6-225号)。

また、大邸高等法院の2015年4月22日判決は、以下のように述べて、在日韓国人が日本の裁判所で行った相続放棄を有効と判断しています。

「国際私法上相続に関する準拠法は『死亡当時の被相続人の本国法』が原則であるが、法律行為の方式は行為地法によっても有効である。相続放棄は身分関係と関連した包括的な権利義務の承継に関したものなので、国際私法第17条第5項の行為地法の適用を排除する『物件その他登記すべき権利の定めや処分する法律行為』には該当されていないとされている。したがって、特別な事情のない限り原告らが行為地法によって日本の裁判所に申告した本件各相続放棄は有効である。」

ただし、上記裁判例の事案は、韓国に不動産を所有していた被相続人の相続に関し日本の家庭裁判所で相続放棄申述を行った相続人らが、他の相続人に対し、相続放棄の効力が韓国所在の不動産に対しては効力を有しないと主張し、所有権移転登記の抹消登記請求を行った事案であり、韓国国内に債務がある場合に、日本で行った相続放棄の申述の効力が韓国でも認められた例は見当たりません。また、上記裁判例でも、「特別な事情のない限り」という留保が加えられており、韓国国内に債務がある場合にどのように判断されるかは未知数です。

したがって、被相続人に韓国国内にも債務がある、あるいはその可能性がある場合は、念のため韓国の家庭裁判所にて相続放棄の手続をとっておくほうが安全といえます。なお、当事務所では、協力関係のある韓国の弁護士がいますので、韓国の家庭裁判所での相続放棄を韓国の弁護士を通じて行うことも可能です。

第3 相続放棄できる期間

韓国民法では、日本の民法と同様、相続の開始があったときから3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きをしなければなりません。ここで注意すべき点は、3ヶ月経過後の相続放棄の可否です。

日本では、相続財産が全くないと信じるに相当な理由がある場合には、「相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時」を起算点として、3ヶ月経過後の相続放棄を認める措置がとられています。しかし、韓国では例外は認められておらず、3ヶ月の起算点について「相続開始の原因となった事実の発生を知り、かつ自己が相続人であることを知った日」という形で厳格に判断されます(大法院決定1964.4.3.63マ54等)。「相続財産があることを知った日」ではなく(大法院決定1984.8.23.84ス17-25)、「相続財産の有無を知った日」や「相続放棄制度を知った日」(大法院決定1988.8.25.88ス10~13)でもなく、「相続財産又は相続債務の存在を知った日」(大法院決定1991.6.11.91ス1)でもないとされています。そのため、たとえ相続人が3ヶ月経過後に債務超過である事を知ったとしても相続放棄をすることはできません。

最近相談を受けた案件で、ご相談を受けた日がまさに相続放棄申述期限で、急ぎ委任状を取得してその日中に家庭裁判所に申述を行ったという案件がありました。くれぐれもご注意ください。

 

第4 特別限定承認の制度

第3で述べた通り、韓国では相続開始後3カ月が経過した場合、相続放棄ができません。ただし、特別限定承認という制度が設けられており、日本での限定承認制度と同様、相続する財産以上の債務を負わないで済むという制度です。ただし、相続債務が相続財産を超過することを重大な過失なく知らなかった場合に限られることと、事実を知った時点から3カ月以内に手続を行う必要があるという点は要注意です。

特別限定承認の手続は、家庭裁判所で行います。日本の法律では相続人が全員で行わなければならないとされているのに対し、韓国の場合には相続人が単独で手続できるという点で違いがあります。

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