遺産分割後の死後認知者の請求権

日本の民法では、親の死亡から3年以内であれば、子は、検察官を相手として、認知(死後認知)の訴えを起こすことができると定めています(民法787条)。そのため、被相続人が亡くなり、相続人全員で遺産分割を行い、一件落着と思っていたところに、死後認知により相続人となった者が現れることがあります。

 

このような場合、日本の民法910条は、「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。」と定めており、遺産分割そのものを無効とはせず、共同相続人に対する価額の支払請求のみを認めています。

 

これは、遺産分割協議の終了後に、認知の訴えによって共同相続人になった者が現れると、認知の効果は出生の時に遡るため(784条)、遺産分割協議は無効であるということになりかねないため、遺産分割協議の効果を維持しつつ、あらたな共同相続人の利益も保護するために、特別に規定したものです。

 

韓国民法においても、第1014条に同様の規定があり、以下の通り定められています。

「相続開始後の認知、裁判の確定によって共同相続人になった者が相続財産の分割を請求する場合に、他の共同相続人が既に分割その他の処分をしたときは、その相続分に相当する価額の支払を請求する権利がある。」

 

ところで、死後認知により相続人となった者が他の共同相続人に対し価額の支払いを請求する権利があるとして、その価額はいつの時点の時価を意味するのか、という問題があります。もちろん、当事者間で協議を行い価格について合意ができれば問題はありませんので、この問題は、当事者間で合意ができず、訴訟になった場合に発生するものです。

 

これについて、韓国の大法院は、以下の通り、事実審の弁論終結時の時価を基準に算定するものと判示しています。

①大法院1993年8月24日判決(http://www.law.go.kr/LSW/precInfoP.do?precSeq=201634

「民法第1014条の価額は、他の共同相続人が相続財産を、実際の処分した価額または処分したときの時価ではなく、事実審弁論終結時の時価を意味する。」

②大法院2002年11月26日判決(http://www.law.go.kr/precInfoP.do?precSeq=82158

「相続開始後の認知または裁判の確定によって共同相続人になった人が、民法第1014条の規定により、その相続分に相当する価額の支払いを訴訟で請求する場合の相続財産の価額は、事実審弁論終結時の時価を基準に算定しなければならない。」

 

①の判決は、その理由として、韓国民法第1014条の価額請求権が、「相続回復請求権」の一種であるため、この価額は被認知者等が相続分を請求するときの時価を意味するものと見るべきであるとしています。

「相続回復請求権」とは、「相続権が僭称相続権者により侵害されたときは、相続権者またはその法定代理人は、相続回復の訴えを提起することができる。」として、韓国民法第999条第1項に定められている権利です。(なお、「僭称相続権者」とは、正当な相続権がないにもかかわらず財産相続人であることを信頼させる外観を備えたり、相続人と僭称し、相続財産の全部または一部を占有することにより、真の相続人の財産相続権を侵害する者をいいます)。

 

「請求権」の一種であることから、他の共同相続人が遺産分割等を行った時点ではなく、請求権の有無の判断の基準時となる事実審の弁論終結時を価額算定の基準時としているということです。

 

以上のように、韓国の法律が関わる案件では、単に条文だけを見るのではなく、判例の内容も踏まえて、対応に当たる必要があります。

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