韓国の遺留分制度が導入から約50年を経て本格改正——在日コリアンの相続に何が変わるのか
はじめに
「韓国籍の親が亡くなったが、長年連絡もなかったきょうだいから遺産の一部を求められた」「一人で親の介護をしてきたのに、ほかの家族と取り分が同じなのは納得できない」——在日コリアンの相続では、こうした悩みをよくうかがいます。
実は、その前提となる韓国の遺留分制度が、2024年の憲法裁判所の判断をきっかけに、1977年の導入から約50年を経て本格的な見直しを迎えました。この記事では、何がどう変わったのかを、当事者の目線でできるだけやさしく整理します。
なぜ在日コリアンの相続で「韓国の法律」が関係するのか
日本の法律(法の適用に関する通則法36条)では、「相続は、被相続人(亡くなった方)の本国法による」と定められています。つまり、亡くなった方が韓国籍であれば、日本に長く住んでいても、相続そのものの中身(だれがどれだけ相続するか、遺留分はどうなるか)は、原則として韓国の相続法で判断されることになります。だからこそ、韓国側の法改正は、在日コリアンのご家族にとって「対岸の話」ではないのです。
発端は2024年4月25日の憲法裁判所決定
韓国の憲法裁判所は2024年4月25日、長く維持されてきた遺留分制度(一定の相続人に最低限保障される取り分)について、大きな判断を示しました。「時代に合わない部分がある」として、一部を違憲、一部を憲法不合致とし、国会に法改正を求めたのです。
ところが、国会は憲法裁判所が定めた2025年末の改正期限に間に合わず、2026年初めには関連規定をめぐる「立法の空白」が生じました。そのため、一部の遺留分訴訟で期日が延期されるなど、実務上の混乱も生じました。その後、2026年2月12日に改正民法が国会を通過し、同年3月17日に公布・即日施行されて、空白は解消されています。ポイントは次の4つです。
① 兄弟姉妹の遺留分が廃止に
これまで韓国では、被相続人の兄弟姉妹にも遺留分が認められていました。しかし憲法裁判所は、兄弟姉妹は財産形成への貢献や相続への期待が乏しいとして、この規定(民法1112条4号)を違憲と判断し、決定と同時に効力を失いました。その後、2024年9月20日の改正で条文からも削除されています。
たとえば、子も配偶者もいない韓国籍の方が、お世話になった方へ全財産を残す場合、兄弟姉妹が相続人となり得るケースでも、2024年4月25日以降は、兄弟姉妹が遺留分を理由にその一部を請求することはできません。
② 「親不孝な相続人」の相続権を失わせることができる可能性(相続権喪失制度)
芸能人の遺族をめぐる出来事をきっかけに議論された、いわゆる「クハラ法(구하라법)」が新設され、2026年1月1日から施行されました(民法1004条の2)。扶養義務を重大に怠った場合や、被相続人に対して重大な犯罪行為・著しく不当な扱いをした場合に、家庭法院がその相続人の相続権喪失を宣告できる制度です。新設当初は、主に問題視された「育児を放棄した親」(直系尊属)が対象でしたが、2026年3月17日施行の改正民法で対象が広げられ、子や配偶者を含むすべての相続人が対象になり得ることになりました。
ただし、これは自動的に相続権を失う制度ではありません。被相続人が生前に公正証書遺言で意思を示し、亡くなった後に遺言執行者が請求する場合や、ほかの相続人などが請求する場合に、家庭法院が相続権の喪失を宣告するという仕組みです。単に疎遠だったというだけで相続権がなくなるわけではない、という点はご注意ください。
③ 介護・貢献した相続人が報われる可能性
被相続人を特別に扶養したり、その財産を守り増やすことに特別な貢献をしたりしたことへの見返りとして贈与・遺贈を受けた場合、その貢献に見合う範囲については、遺留分を計算するときの基礎財産(特別受益)から除外されることになりました。「親身に世話をした人が、そうでない家族と同じ扱いになる」という不公平を和らげる趣旨です。
ただし、同居していた、通常の範囲で介護をしていたというだけで当然に除外されるわけではなく、その贈与・遺贈が特別な貢献への見返りといえるかどうかが問題になります。
④ 遺留分は「モノ」ではなく「お金」で清算
これまで争いになりがちだった遺留分の返し方について、現物(不動産そのもの等)ではなく価額(金銭)で清算することが明文化されました。不動産や株式を細かく分け合う複雑さを避けやすくなり、法律関係がシンプルになることが期待されます。
なお、この金銭での清算は、2026年3月17日以降に開始した相続(つまり同日以降にお亡くなりになった場合)に限って適用されます。それより前に開始した相続には及びませんので、ご自身のケースがどちらにあたるかの確認が必要です。
いつ開始した相続から適用されるのか—改正項目ごとに違います
見落としやすいのが「いつ開始した相続に効くか」です。今回の改正は、項目ごとに適用の時期が分かれています。
相続権喪失の対象が広がった点と、特別な扶養・貢献への見返りとしてされた贈与・遺贈を特別受益から除く点は、2024年4月25日以降に開始した相続にさかのぼって適用されます。一方、遺留分を金銭で清算する点は、2026年3月17日以降に開始した相続に限られ、さかのぼりません。
さらに韓国大法院は2026年6月25日、憲法裁判所が遺留分制度について憲法不合致と判断した2024年4月25日の時点で、旧法の該当部分が裁判の前提となって、すでに裁判所に係属していた事件(いわゆる「並行事件」)についても、改正民法を適用すべきであると判断しました(2025다219693)。そのため、相続が始まったのが2024年4月25日より前であっても、同日の時点ですでに該当する裁判が係属していた場合には、結論が変わる可能性があります。
また、2024年4月25日以降、2026年3月17日の施行前までに開始した相続について、相続権喪失の事由がある方が相続人になっていることを施行前に知っていたほかの相続人などには、施行日から6か月以内に家庭法院へ請求しなければならないという特例が設けられています。該当する場合は2026年9月16日が期限とされていますので、お早めのご確認をおすすめします。
在日コリアンの実務で気をつけたいこと
実際の手続では、韓国の家族関係証明書や除籍謄本など韓国側書類の取得が必要になり、日本の家庭裁判所での手続と韓国の制度が絡み合います。「どちらの国の法律が適用されるのか」「いつ開始した相続か」によって、遺留分を請求できるか・請求されるかの結論が大きく変わります。ご自身のケースがどう扱われるか判断に迷う場合は、早めに専門家へご相談ください。
当事務所は、在日コリアンの相続を数多く取り扱っています。書類の取得から遺産分割、遺留分をめぐる交渉まで、日韓双方の制度を踏まえて対応いたします。まずはお気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案については個別にご相談ください。
