スポーツ法務

a professional lawyer of sports

スポーツと法律の接点①

弁護士 武田雄司

第1 はじめに


私自身スポーツが好きで、これまでの人生を振り返ると、スポーツ少年団に所属し、学校や地域の運動会・体育祭に参加し、クラブ活動に励み、サッカーサークルに所属し、スポーツマネジメント会社が主催する大会に出場し、社会人になった以降は社会人リーグに登録し運動を続け、テレビはもちろん、競技場でプロスポーツを観戦する等、スポーツと日々接点がある生活を送ってきました。

これまで、プレー中に多少の怪我をする等ことはありましたが、「ルールの中で偶然発生した事故的な怪我であって法律問題になんてならない」という感覚でいましたし、多少の怪我以外にスポーツを通じてこれと言って大きな問題に直面することはありませんでしたから、スポーツと法律の接点を肌で感じることは個人的にはありませんでした。

 

そして、スポーツが好きで、日々スポーツと接点がある方でも、多少の怪我を除いて、スポーツを通じて大きな問題に直面したと感じたことのある方の方が少数でしょうし、「スポーツと法律ってそもそも関係するの?どこで関係するの?」という素朴な疑問を持つ方の方が多いのではないでしょうか(私もその一人でした。)。

 

しかし、現実には、スポーツに関連する裁判例やスポーツ仲裁機関の仲裁事例もありますし、紛争以外の切り口から見たときにも、多種多様なスポーツと法律の接点を見つけることができます。

 

そのようなスポーツと法律の接点を紹介しつつ、各接点における法律的観点についてお伝えできればと思っています。

 

第2 スポーツと法律の接点~分析の視点


弁護士法第3条第1項に、弁護士の職務の一つとして、「訴訟事件…に関する行為」を行うことと規定されているように、弁護士の業務の一分野として、紛争の発生を前提とした紛争解決法務が挙げられます。ここには、裁判には発展していない紛争も含まれ、紛争発生後のあらゆる対応が業務内容となります。

 

一方で、紛争の発生を防止する観点から、紛争の予防法務の業務もあり、こちらもまた、弁護士の業務の中心分野です。

 

スポーツと法律の接点についても、紛争解決法務と紛争予防法務の観点で整理してみたいと思います。

 

1.紛争解決法務


1.1 スポーツ事故と紛争


紛争の発生をイメージしやすい場面としては、いわゆるスポーツ事故が発生した場面があるでしょう。

例えば、①クラブ活動中に熱中症で倒れた、②自治会主催で海水浴に行った際の事故で半身不随の重症を負った、③スキーで滑走中に衝突された、④プールに飛び込んだところプールの底で強打し骨折をした等のスポーツ事故を想像してみてください。

責任追及をする相手方としては、それぞれ①引率教師や市・都道府県等の地方公共団体、②自治会、③衝突相手やゲレンデ所有者、④プール所有者、プール監視員やプール監視会社等が考えられるでしょう。

先日、札幌ドームでプロ野球・日本ハムの試合を観戦中にファウルボールが当たり右目を失明した女性が、球団やドームなどに賠償を求めた裁判の判決が札幌地裁でなされ、約4200万円の賠償責任が認められましたが(日本ハム側は控訴を検討中とのことで、未確定のようです。)、この事例も④と同種のスポーツ事故に関する裁判例と言えるでしょう。

このように、スポーツ事故が発生した場面では、責任を負うべき者に対して被害者が責任追及をすることを中心としてスポーツと法律の接点が持つことになります。

 

スポーツの場面に応じて、スポーツ事故・紛争を類型化すると、概ね次のような類型が考えられるでしょう。

①学校のスポーツ事故と紛争

②コミュニティのスポーツ事故と紛争

③レジャー・レクリエーションのスポーツ事故と紛争

④スポーツ施設とスポーツ用具の事故と紛争

 

1.2 競技団体による処分・選手選考に関する紛争


スポーツ事故発生場面と異なる局面における紛争としては、事故の競技団体による処分・選手選考に関して、選手と競技団体の間で発生する紛争があります。

例えば、①チームに参加資格がないことを理由とする大会への参加不許可処分に対して取消を求める事例、②競技団体が設定する代表選考の要件をクリアしているものの選考されず、要件をクリアしていない又はより低い競技結果の者が代表に選考されているため、当該代表選考処分の取り消しを求める事例、③競技団体の設定する規則に規定された手続を経ずになされた選手の参加資格停止処分の取り消しを求める事例等を想像いただけると、これらの紛争類型を具体的にイメージいただけるのではないでしょうか。

 

具体的な事案としては、競泳選手の千葉すず選手が、2000年のシドニー・オリンピックの代表選考で落選した際に、日本水泳連盟を相手として、代表選手であることの確認を求めスポーツ仲裁裁判所へ仲裁を申立てた事案や、2007年、我那覇和樹選手がドーピングの嫌疑によって制裁を科されたJリーグを相手として、処分の取消を求めて同じくスポーツ仲裁裁判所へ仲裁を申立てた事案が記憶にある方もいるのではないでしょうか。

 

これらの紛争については、競技団体内部の紛争として法律が関与するものではない紛争が紛れ込んでいることも考えられますが、法律による解決の可否という論点も含めて、スポーツと法律が接点を持つ問題です。

 

1.3 ドーピングに関する紛争


ドーピングとは、一般的には、競技者がその競技能力を向上させることを目的として、薬物などを不正に使用することをいうと理解されています。

ドーピングコントロールは、現在、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)によって制定された規則である世界ドーピング防止規程(WADA Code)を根拠に実施されており、日本国内においては、日本政府から指定を受けた日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が、WADA Codeに準拠した日本ドーピング防止規程(JADA規程)を策定、適用し実施しています。

我那覇選手の事件もドーピングに関する事件ではありましたが、ドーピング規程違反に対しては、競技成績の失効や資格停止処分等の制裁措置が定められており、当該措置に対する不服申立てという形で紛争が発生することになります。

このような紛争も、法的解決に馴染む紛争であり、スポーツと法律が接するポイントになります。

 

1.4 体罰・いじめ・パワハラ・セクハラ等に関する紛争

 

体罰・いじめ・パワハラ・セクハラ等の問題は、何もスポーツに特有のものでありませんが、競技内容によっても異なるものの、スポーツにおける指導・教育については、根性論・精神論の名残も含めて、スポーツ界の特殊な状況が存在することも事実ではないでしょうか。

2012年末には、ロンドン五輪の柔道に出場した日本代表を含む国内女子トップ選手15名が、五輪に向けた強化合宿などで代表監督やコーチによる暴力やパワーハラスメントがあったと告発する文書を連名で日本オリンピック委員会(JOC)に提出するといった事態や、クラブ活動中、顧問から体罰を受けた生徒が直後に自殺をする事件等も記憶に新しく、スポーツが法律と接点を持つことになる紛争がここに存在します。

行為内容はもちろん、加害者・被害者の属性によっても、誰がどのような責任を負うことになるのか、難しい法的な論点が出てくる問題になります。

 

1.5 刑事事件と民事事件

 

以上の紛争類型は、何も民事事件だけで終わるものではなく、業務上過失致死事件、傷害事件等刑事事件としても立件される可能性があるものです。その点では、スポーツと刑事事件(=犯罪行為)という視点も、スポーツと法律の接点の一つになります。

 

少し長くなりましたので、紛争予防法務の視点から見たスポーツと法律の接点についてはまた後日。

(続く)

(弁護士 武田雄司)

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