スポーツと法律の接点②
前回スポーツと法律の接点~分析の視点の途中で終了していました。
今回はその続きです。
第2 スポーツと法律の接点~分析の視点
弁護士法第3条第1項に、弁護士の職務の一つとして、「訴訟事件…に関する行為」を行うことと規定されているように、弁護士の業務の一分野として、紛争の発生を前提とした紛争解決法務が挙げられます。ここには、裁判には発展していない紛争も含まれ、紛争発生後のあらゆる対応が業務内容となります。
一方で、紛争の発生を防止する観点から、紛争の予防法務の業務もあり、こちらもまた、弁護士の業務の中心分野です。
スポーツと法律の接点についても、この紛争解決法務と紛争予防法務の観点で整理してみたいと思います。
今回は、紛争予防法務の観点での整理です。
2.紛争予防法務
2.1 スポーツビジネス
スポーツビジネスという言葉は、何らかの法律で具体的な定義が定められているわけではなく、多義的であって、広く捉えると様々な要素が入ってくるものです。
まずは広く捉えたときにどのような内容がスポーツビジネスとして含まれてくるのか考えるあたり、大きな視点として、スポーツに対する接し方について法律の条文ではどのように整理されているのか、みてみましょう。
■スポーツ基本法前文抜粋
「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利であり、全ての国民がその自発性の下に、各々の関心、適性等に応じて、安全かつ公正な 環境の下で日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならない。」
スポーツ基本法前文では、スポーツに対する接し方について、①「スポーツに親しみ」、②「スポーツを楽しみ」、③「スポーツを支える」という3つの視点が示されています。
これをスポーツを①「観る」、②「する」、③「支える」という要素と捉えて、それぞれについてどのようなビジネスにつながっているのか想像すると概ね次のような内容が出てくるのではないでしょうか((契約類型の観点で整理。派生的に内容は広がり一部重複してしまいます。)。
■「観る」
・スポーツイベントをLIVEで観戦する。
⇒スポーツイベントの興行権取引契約、チケット販売(観戦契約)、スタジアムの建設請負契約、施設の賃借契約、観戦ツアー旅行契約、スタジアム内でのグッズ・飲食販売等契約、スタジアム広告契約等
・スポーツイベントをテレビ・ラジオ・インターネットで観戦する。
⇒放送事業運営、放映権契約、映像製作委託契約、広告契約、受信契約、スポーツバー経営等
・過去のスポーツイベントをDVD等で観る。
⇒DVD制作請負契約・販売契約、著作権ライセンス契約等
■「する」
・プロスポーツ選手として
⇒プロ契約、所属団体への加入契約、スポーツ選手のエージェント契約、マネジメント契約、スポンサー契約、サプライヤー契約、所属契約、肖像権・パブリシティ権・出版物等の著作権等の知的財産権のライセンス契約等
・アマチュア選手として
⇒社員契約、スタッフ契約、スポンサー契約、サプライヤー契約、所属契約、大会等イベント参加契約、肖像権・パブリシティ権・出版物等の著作権等の知的財産権のライセンス契約等
・「する」道具の提供=スポーツ用品製造業
⇒製造委託契約、OEM契約、販売契約、サプライヤー契約、用具使用契約、アドバイザリー契約、パートナーシップ契約、商標権・特許権・意匠権等知的財産権のライセンス契約、PL保険契約等
・「する」場の提供=スポーツクラブ事業
⇒入会契約、施設利用契約、施設建設請負契約、駐車場契約
■「支える」
・スポンサーシップの提供
・スポーツ団体の設立、運営
以上、想定した各契約は、スポーツビジネスに限定されるものばかりではありませんが、スポーツに関する特別な内容を検討する必要があるという意味では、広い意味で、スポーツビジネスに関連する契約といえるでしょう。
各スポーツビジネスの分野において、各分野に存在する法的問題を整理し、権利義務関係を明確にするために各契約を締結し、ビジネスが展開されているのが現状です。
こうしてみると、スポーツビジネスと言っても、様々な分野で様々な論点があることが想像できますね。
次回以降は、各項目について少し掘り下げて、具体的な中身について考えてみたいと思います。
2.2 プロスポーツ選手の法的地位
2.3 代理人契約
2.4 スポーツに関わる知的財産権
2.5 興行権
2.6 放送権
2.7 スポンサー契約
2.8 スポーツクラブ
2.9 スポーツ保険
(続く)
(弁護士 武田雄司)