スポーツ法務

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スポーツジムの瑕疵について

弁護士 武田雄司

第1 はじめに

 

施設の瑕疵シリーズが続いていますが、スポーツジムの瑕疵が争われた事案がありますので、ご紹介致します。

 

第2 スポーツジムの瑕疵に関する裁判例(スポーツクラブのプールで行われた水中体操に参加後、水着のままロッカールームに通ずる廊下を歩行中転倒して受傷した正会員が、施設の設置又は保存に瑕疵があったと主張してした損害賠償請求が、一部認容された事例)


1.裁判例の概要


平成9年2月13日/東京地方裁判所/判決/平成7年(ワ)18345

 

この裁判例は、スポーツクラブ内で足を滑らせて転倒負傷した原告が、同スポーツクラブには設置又は管理の瑕疵があったと主張して、民法717条に基づき損害賠償を求めた件について、本件スポーツ施設の廊下は、素足で通行する利用者にとって滑りやすい箇所が生ずるという危険性を有していたというべきで、本件スポーツ施設には、設置又は保存の瑕疵があったものと解するのが相当であると判断した上で、原告の過失割合を足下の状況に十分注意し、水を避けて歩行すべき義務があるのにこれを怠り、漫然と歩行した過失が認められるとして、4割の過失相殺がなされた事例です。

 

2.瑕疵の判断基準

 

瑕疵の判断基準としては次の通り述べており、これまで過去のコラムでご紹介してきた裁判例と同じ基準が採用されています。

 

当該工作物が当初から、又は維持管理の間に、通常あるいは本来有すべき安全性に関する性状又は設備を欠くことをいい、その存否の判断にあたっては、当該工作物の設置された場所的環境、用途、利用状況等の諸般の事情を考慮し、当該工作物の通常の利用方法に即して生ずる危険に対して安全性を備えているか否かという観点から、当該工作物自体の危険性だけでなく、その危険を防止する機能を具備しているか否かも併せて判断すべきである。

 

3.瑕疵を認めた要素

 

当該裁判例が「瑕疵」を認定した要素は次のとおりです。

 

①事故当時、被告は、階段の一階の上り口、一階と二階との間の踊り場、二階に上がった所にそれぞれ足をふくためのマットを置き、階段の一階の上り口、一階と二階との間の踊り場には、身体をよくふくように促す注意書きを掲示していたが、プール、シャワー利用後よく身体を拭かず、水着が水分を相当含んだ濡れた状態のままで利用者が通行することが少なくなかったため、本件廊下は、ナラの小市松材質でフローリングされた床面上に水滴が飛散し、しばしば滑りやすい状態になったこと。

 

②殊に、前記コンクリート壁の端付近の箇所は、何らかの原因のために、利用者の身体から落ちた水滴が集まって小さな水たまりができやすく、この箇所に水がたまっていると滑りやすかったこと。

 

③利用者は素足で本件廊下を通行するので、転倒して受傷する危険性があったこと。

 

④被告の係員は、本件廊下やロッカールーム等をおおむね一時間おきに巡回して床の水をふき取ったり、プールでのレッスンが終了した後も、時間を見計らって本件廊下の水をふき取る等して清掃を行っていたが、その清掃が行われる前には、本件廊下、殊に、前記コンクリート壁の端付近の箇所は、小さな水たまりができる等して滑りやすい状態になっていたこと。

 

⑤カラーすのこを敷く等して右危険を防止する有効な措置が執られていなかったこと。

 

結論:本件廊下は、一階から濡れた水着のままで上がってくるプール利用者が通行するため、利用者の身体から水滴が落ち、素足で通行する利用者にとって滑りやすい箇所が生ずるという危険性を有していたものというべきである。

 

第3 ポイント

 

被告は、反論として、①階段の一階の上り口、一階と二階との間の踊り場には、身体をよくふくように促す注意書きがあったこと、②被告の係員は、クラブ内を清潔に保つために、廊下やロッカールーム等をおおむね一時間おきに巡回し、床の水滴をふき取ったり、掃除機でゴミを吸い取ったりしていたこと、③プールでのレッスンが終了した後には、廊下の清掃を行っていたため、二階廊下においても水がたまるということはなかったこと等を主張していたものの、結論として、利用者の身体から水滴が落ち、素足で通行する利用者にとって滑りやすい箇所が生ずるという危険性を有していたと認定されており、事実認定が結論を左右した事例と思われます。

 

最終的には被害者の過失が40%認められているとはいえ、事故後被告が本件廊下の一部に合成樹脂製のマットを敷いているように、施設側としては、事故を起こさない対策を日常的にしっかりと取り、事故を未然に防止することが一番重要であることはいうまでもありません。

 

クレーム受付や目安箱の設置等は、最終的な責任の発生を未然に防止するために必要な安全対策を取るための大前提となる情報収集を行なう貴重な手段になります。

 

この観点から、クレーム受付や目安箱の設置等、情報収集の積極的意義について一度見直してみるのもいいのではないでしょうか。

 

以上

(弁護士 武田雄司)

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