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種目別事故事例:スキー事故(上方滑走者の注意義務②)

弁護士 武田雄司

■ポイント


1.平成7年3月10日最高裁判所第2小法廷判決を引用し、スキー場で上方から滑降する者に対しては、


①前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意する義務

及び

②(①の義務を尽くして下方を滑降している者を発見した場合には)その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務


を認める下級審裁判例が相当数出されている。


2.上方で追い越した後、転回して方向を変える場合、追い越された者の滑る位置や方向によっては、追い越された者の進路を横切る形になる可能性があるから、追い越された者の動静に注意して、接触や衝突のおそれのないことを確認して転回すべき注意義務が認められた事例がある(平成9年7月24日/千葉地方裁判所/民事第2部判決)。


3.平成7年3月10日の最高裁判例を引用し、一般論として、上方から滑走する者は、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を認めつつ、具体的には、ゲレンデの様子、衝突したスキーヤーの技量、滑降速度等の事情から、後方(上方)から衝突した者に大きな過失を認めている裁判例が散見される。

 

第1 はじめに

 

平成7年3月10日最高裁判所第2小法廷判決/平成6年(オ)第244号が出され、スキーヤーが滑降する際の注意義務に関して一定の方向性が示さた後、下級審においても、当該最高裁の判断を引用しつつ、具体的な判断がなされている事例がいくつか見受けられます。

 

本稿では、以下、特に上方から滑降する者の注意義務について判断をした下級審裁判例をいくつか取り上げて検討してみたいと思います。

 

第2 上方滑走者の注意義務に関する下級審裁判例

 

1.平成9年7月24日/千葉地方裁判所/民事第2部判決/平成7年(ワ)1702

※判例時報163986

 

■判示事項


スキーツアー参加者間のスキー場における接触事故につき、上方から滑走してきて転回しようとした者の過失を認めて損害賠償責任が肯定された事例

 

事案


・原告はスキー歴15年、被告は20年余で、いずれも中級の技量を有するスキーヤー

・本件事故はハウィスラースキー場のブロッコムマウンテンを頂上とする、初級から中級者向けの比較的緩斜面のゲレンデで発生

・原告や被告を含むツアー参加者はガイドから昼食のため下方のレストハウスに向かうように指示されて、右ゲレンデを滑り始めた

・原告は斜滑降で最初は右側に向けて滑って行き、途中で向きを変えるべく一旦停止した

・そこには原告だけでなく、被告や他のツアー参加者ら5、6人が集るようにして一旦停止したが、原告は被告よりも先に今度は左側に向かって滑り始め、 さらに転回して右側に向きを変えたときに、左方から原告の前を横切るように滑ってきた被告のスキー板の後部に、原告の右足のスキー板の前部が接触して、そのあおりで原告は左側に尻もちをつくような形で転倒した

・一方、被告は先に滑り始めた原告を右斜め前方に見ながら原告の上方を同様に左方向に滑って行き、原告を追い越した後、転回して右方向に滑り始めた直後に、そのスキー板の後部が原告のスキー板に接触してしまった

・原告及び被告とも、転回するにあたって互に相手を確認しておらず、接触によってはじめて気づいた。

 

■判決要旨

 

被告は上方で原告を追い越した後、転回して方向を変えようとしたのであるが、原告の滑る位置や方向によっては、これにより下方にいる原告の進路を横切る形になるのであるから、原告の動静に注意して、原告との接触や衝突のおそれのないことを確認して転回すべき注意義務があるものと解され、被告にはこれを怠った過失があるというべきである。

 

しかしながら、原告にも、転回してその滑降の方向を変えるにあたっては、周囲を滑降している人の動静に注意して、安全を確かめてから転回を開始すべき注意義務があるのに、これを怠った過失のあることが認められるのであって、損害負担の公平を図るうえからは、この原告の過失も考慮すべきであり、原告、被告双方の過失の内容、ことに一般的には上方から滑降してくる者に接触や衝突回避のための第一次的な注意義務があると解されることなど諸般の事情を勘案すると、両者の過失割合は原告が20パーセント、被告か80パーセントと認めるのが相当である。

 

2.平成11年2月26日/神戸地方裁判所判決/平成9年(ワ)1845

※判例時報1696126

 

■判示事項

 

スキー場における滑降者同士の衝突につき上方から滑降してきた者に一方的な過失によるものとして損害賠償請求が認容された事例

 

■事案


・原告は、本件事故当時32才の女性

・スキー場を訪れた回数は本件事故当時3回しかなく(通算日数7日間)、緩斜面においてプルークボーゲンができる程度のスキー初心者

・原告と同行していた夫は、25年のスキー歴を有する上級者

・被告は、本件事故当時、25才の男性であり、5~6年前から一シーズンに30回くらいスノーボードをしてきたものであり、アマチュアのスノーボード大会の出場経験も数回あるスノーボードの上級者

・被告は、本件スキー場においても合計20回ほどスノーボードをしており、本件ゲレンデ付近の地形についても熟知していた。

・本件ゲレンデは、平均10度から15度程度の斜度をもった緩斜面

・幅も約30メートルと広く、見通しもよい初級者用のコース

・本件事故当時は、小雪混じりの曇天であったが、視界は良好であり、本件ゲレンデ付近には、数名の者がいたが、原告が滑走していた付近には他の滑走者はいなかった。

・原告と夫は、午前10時ころ、本件スキー場においてスキーを始め、午前10時30分ころ、リフト(第七トリプルリフト)から降車し、連結通路を通り、本件ゲレンデの入口(上部)に来た。

・夫は、本件ゲレンデの上下方向を確認し、滑走者がいないことを確かめた上、自らは連結通路の出口付近で見守り、原告を滑走させた。

・原告は、本件ゲレンデを、プルークボーゲンでゆっくり谷側に向かって滑走を始めた。

・被告は、同日、早朝から本件スキー場においてスノーボードをしていたが、午前10時30分前ころ、第五ペアリフトを降車した地点から、友人5名と共に中 級者用のゲレンデであるパラダイスフィールドを滑走し、滑走中に他の4名を100~150メートル引き離し、本件ゲレンデ上方の急傾斜地点に差しかかった。

・被告は、右急傾斜地点で加速したまま本件ゲレンデを滑降し、原告から約15メートル離れた地点で、進行方向に原告がプルークボーゲンでゆっくり右方向 に滑走していることに気づいた。

・その時、原告は、プルークボーゲンで左と右に約3回ずつターンし約10メートル進んだところであり、その後、ゆっくりと左へターンし始めた。

・被告は、原告が右方に進行を続けるものと考え、自らの進行方向をやや左寄りにして、速度はほとんど緩めず、原告の動きを見ないまま、滑走を続け、次に原告に気づいたのは約7メートル離れた地点であった。

・被告は、原告が左方に進行しているのを見て驚き、進路を変更しようとしたが、高速で滑走していたため、進路を変更することができなかった。

・原告は、被告が上方から滑走してくるのに気づかなかったが、原・被告間の距離が約3メートルになった時点で、初めて被告が直進してくるのに気づいた。

・原・被告は、衝突回避行動を取りえず、被告は、斜め後方から原告に衝突した。

 

■判決要旨

 

被告は、中者用のゲレンデをかなりの速度で滑降してきて、本件ゲレンデ上部の急斜面でさらに加速し、そのまま特に減速せずに初級者用ゲレンデである本件ゲレンデ内に突入したのである。そして、下方約15メートルの地点で、プルークボーゲンでゆっくり右方に滑走している原告を認めたのであるから、原告の動きを注視しつつ、減速し或いは安全な方向に進路を変えるなど、原告への衝突を避ける措置をとるべきであった。しかるに、被告は、僅かに進行方向を左に変えただけで、減速せず、原告の動きを注視せずに滑走を続けたため、約七メートルの地点で、方 向を変えて左方に進行している原告を再び認めた時には、自らの進行方向を変更することができず、そのまま原告に衝突したのである。そして、前記ゲレンデの 状況によれば、非行が右衝突回避措置をとることに支障があったような事情を認めることはできない。したがって、右衝突回避措置をとらなかった被告には過失があるといわざるをえない。

 

なお、スキー場においては、上方から滑走する者に、前方を注視し、下方を滑走する者の動静に注意して、その者と の接触・衝突を避けるべく速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務があるというべきである。これに対し、下方を滑走する者は、コースが混雑し、見通しが悪いなどの特段の事情のない限り、後方を注意する義務は原則としてないというべきである。

 

よって、過失相殺の抗弁には理由がない。

 

3.平成17年8月16日/神戸地方裁判所判決/平成16年(ワ)466

※判例時報1928105

 

■判示事項

 

スキー場で滑走していた者が上方からスノーボードで滑走してきた者に衝突されて重傷を負った事故について、上方からの滑走者に過失があったとしてその不法行為責任が認められた事例

 

■事案


・原告は、高校の修学旅行のときに初めてスキーをし、その後スキーツアー(全日程5日間)に2~3回程度参加したことがあり、本件事故当時は、パラレルで斜滑降はできるが、左右に転回するのはスキーを八の字に開くいわゆるボーゲンによる方法でしかできないという程度の技量の者。

・被告は、本件事故の前年にも本件スキー場に来て、スノーボードでの滑走を行っている。

・原告は、スキー教室での指導を受けた後、男性指導員と一緒に第2ペアリフトに乗り、到着した地点から、本件スキー場のパノラマコース内を男性指 導員が先導して、S字を描くように滑降し、その跡をなぞるように原告が滑降した。

・このときの原告の滑降の仕方は、スキーを完全にそろえることはできず、多少スキーを八の字に開いて滑降し、ボーゲンで左右に転回していた。

・パノラマコースの平均斜度は15度。

・原告がパノラマコース内を上記のような方法で滑降し、本件事故現場付近にさしかかり、スキーを八の字に開いて左に転回しようとしたところ、原告の進行方向の左後方から被告がスノーボードで滑走してきて原告の後方より衝突した。

・原告は前方に転倒し、現場に来たパトロール隊員に抱えられて、救護センターに運ばれ、そこで寝かされた。

・事故故確認書には、パノラマコースの×地点において甲(原告)が左ターンをしようとした時、乙(被告) が後部から衝突した旨記載されている

・被告は、原告に対し、「スピードを出しすぎてコントロールできずに後ろからぶつかった。」と言って、謝罪していた。

 

■判決要旨

 

スキー場において上方から滑走する者は、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負う(最判平成7年3月10日判例タイムズ876号142頁以下)と解するのが相当であるところ、以上の事実によれば、本件事故現場付近は急斜面ではなく、原告は、スキーをやや開いて斜滑降をしており、原告の技量からして、さほど速度が出ていたとは考えられず、加えて、被告が原告に衝突した時点においては、原告はボーゲンで左に転回しようとしていたときであるから、原告の滑降する速度はかなり遅かったことが認められ、被告は、原告との接触を避けるための措置を採り得る時間的余裕をもって、下方を滑降している原告を発見することができ、本件事故を回避することができたというべきであるから、被告には前記注意義務を怠った過失があり、原告が本件事故により被った損害を賠償する責任がある。

 

第3 まとめ

 

以上のとおり、平成7年3月10日の最高裁判例を引用し、一般論として、上方から滑走する者は、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を認め、具体的には、ゲレンデの様子、衝突したスキーヤーの技量、滑降速度等の事情から、後方(上方)から衝突した者に大きな過失を認めているのが特徴といえます。

 

以上

(弁護士 武田雄司)

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