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オーストラリアビジネス法務(21)-日豪間のビジネス契約書における紛争解決条項-

弁護士 髙橋健

 

1.ビジネス契約書における紛争解決条項

 

 

(1)紛争解決条項とは?

 

 

売買取引基本契約書や販売店契約書といった典型的な契約類型から、共同開発契約書、その他複雑に権利義務関係が絡み合う契約類型など、どのようなビジネス契約書であっても、通常、契約書の末尾あたりに「紛争解決条項」なるものが置かれることが多いかと思います。

 

 

特に国境をまたいで締結される国際間のビジネス契約書では、ほぼ例外なく、準拠法の条項とともにこの紛争解決条項が定められます。

 

日本の企業とオーストラリアの企業が何らかのビジネス契約書を締結する場合も、同様に、契約書にこの紛争解決条項が定められることが多いです。

 

 

紛争解決条項とは、当事者間で将来、これから締結する契約に関連して紛争が生じた場合、どこの機関で、どのようにしてその紛争を解決するか、を定める条項ですが、大別すると、「裁判所での裁判(訴訟等)」と「仲裁機関での仲裁」の2パターンがあり得ます。

 

 

そして、この2パターンの中には、「どこの裁判所(あるいは仲裁機関)とするのか」等をめぐって、さらにいくつかの考え方(当事者一方の国の機関か、それとも第三国の機関か等)があり、もっといえば、当該ビジネスモデルや契約の類型等から、有事の場合、主に日本企業が法的手段を取らなければならないのか、それとも法的手段を取られる立場になる可能性のほうが高いのか(例えば、NDAを締結する場合で、かつ日本企業側は専ら情報受領側に立つことが想定されるのであれば、可能性としては、後者になることが多いと考えられます)なども考えながら、どのような紛争解決条項がベストか、検討を行うことになります。

 

 

(2)紛争解決条項と、外国における日本の確定判決の執行力について

 

 

このような検討の中で、大きな考慮要素の一つとなるのが、「日本の裁判所の判決を、当該外国で執行することができるのか」という視点です。

 

 

例えば、日本企業(売主側)とオーストラリアの企業(買主側)が商品の売買取引基本契約を締結するとします。

 

そして、契約交渉の結果、この契約書における紛争解決条項において、将来の紛争は日本の裁判所の訴訟によって解決する旨定めることができる状況になったとします。

 

 

日本企業がオーストラリアの裁判所で裁判を行う場合と比べれば、慣れ親しんでいる日本の裁判所で裁判を行うほうが、日本企業への負担は軽いと考えられ、その意味では、上記の紛争解決条項は、日本企業にとって望ましい内容と言えそうです。

 

 

では、仮に将来、オーストラリア企業が売買代金を支払わなかったため、日本の裁判所で訴訟提起し、無事に勝訴したとして、果たしてその日本の裁判所の判決書をもってオーストラリア国内で、強制執行(オーストラリア企業の資産の差押え等)をすることができるのでしょうか。

 

 

もしこれができなければ、日本の裁判所の勝訴判決は、「現実の代金回収」という文脈では、意味をなさないものになってしまいます。

 

 

そのため、この執行力の問題をクリアすることなく日本の裁判所を紛争解決の方法・機関として契約書に定めることは、取引先(オーストラリアの企業)が日本国内に潤沢な資産を有している場合は別にして、少々危険といえるでしょう。

 

 

2.日本の裁判所の判決はオーストラリアで執行可能か?

 

 

結論として、次にお話するオーストラリア国内法によれば、日本の裁判所(但し、簡易裁判所は除く)の判決も、一定の条件と手続を踏めば、オーストラリア国内で執行力を有する(オーストラリア国内の判決と同じ効力を有する)こととなります。

 

 

<関係するオーストラリア国内の法律・規則>

 

(1)Foreign Judgments Act 1991(”法律”)

 

(2)Foreign Judgments Regulations 1992 (“規則”)

 

⇒上記(1)が、どのような外国判決がオーストラリア国内で執行力等を有するかを定める法律で、(2)がその法律の細則等を定めた規則となります。

 

 

 

この(1)の法律と(2)の規則では、具体的に、どこの国の確定判決が対象となるかや、オーストラリア国内で強制力(執行力)を具備するための手続などが定められています。

 

 

 

 

<日本の裁判所がsuperior courtsにあたるか>

 

 

まず、日本の確定判決が対象となる外国判決に含まれているか、については、上記(1)の法律のPart 2Reciprocal enforcement of judgmentsで、”superior courts”という概念が記載されており(例えば、法律第5条‐Application of this Part on the basis of reciprocity of treatment‐の第1項)、そのsuperior courtsは、上記(2)の規則第4条とSchedule Superior Courtsに定められています。

 

 

そして、そのScheduleのItem16に、”Japan”が定められており、日本の裁判所もsuperior courtsに含まれていることがわかります。

 

 

なお、注意点として、日本の裁判所のうち、superior courtsとして認められているのは、このScheduleの”court”欄に明記されている通り、Supreme Court(最高裁判所), High Courts(高等裁判所), District Courts(地方裁判所), Family Courts(家庭裁判所)のみであり、簡易裁判所は明記されていません。
そのため、簡易裁判所の確定判決は、オーストラリア国内で執行力を有さないと考えられていますので((1)法律の第5条2項参照)、日豪のビジネス契約書における紛争解決条項で日本の裁判所を指定できることとなった場合でも、簡易裁判所は除外しておくこと(地方裁判所を専属的合意管轄裁判所と定めること)が安全といえます。

 

 

 

<どのような条件を具備する必要があるか>

 

 

次に、日本の裁判所における確定判決は、無条件にオーストラリアで執行力を有するのか、というと、そうではありません。

 

 

(1)の法律には、いくつか条件が定められています。

 

 

例えば、日本の判決は、確定している(”is final and conclusive”)必要があり(法律第5条4項(a))、また金銭の支払いを命じる判決(”money judgement”)であることが想定されています(例えば、法律第5条第1項や4項本文)。

 

 

その他にも、(1)の法律では、いくつかの条件が定められているため、もし実際に日本の確定判決を用いてオーストラリア国内で強制執行を行う場合には、オーストラリア現地の弁護士の先生に確認・依頼することが必要になるかと思われます。

 

 

<どのような手続を行う必要があるのか>

 

 

(1)の法律第6条‐Application for, and effect of, registration of foreign judgments‐では、日本の確定判決でオーストラリア国内で強制執行を行う場合、オーストラリア国内で、外国判決としての登録(registration of foreing judgements)を行わなければならないこととなっています。

 

 

 

同条では、例えば、判決日から6年以内に、この外国判決の登録手続きを行う必要がある(法律第6条第1項)など、重要な事項も記載されていますので、実際にオーストラリア国内で強制執行を行うこととなった場合には、事前にこの部分を詳細に確認をする必要があります。

 

 

 

3.まとめ

 

 

以上をまとめると、オーストラリア国内では、Foreign Judgments Act 1991とForeign Judgments Regulations 1992により、日本の裁判所(簡易裁判所を除く)の確定判決も執行力が認められていると考えられますので、「日本の裁判所の判決は、当該外国にて強制力・執行力が認められるか」という視点から紛争解決条項を検討する際には、日本の裁判所を定めることも一つの有力な案として検討されます。

 

 

もっとも、実際にオーストラリア国内で、日本の確定判決をもって強制執行を行おうとすると、一定の条件と手続が必要となるため、少なくともその時点では、オーストラリアの弁護士のアドバイス等を受ける必要がある、と考えられます。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

 

 

【弁護士 高橋 健】

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