後遺障害:PTSDについて
交通事故により,後遺障害を負った場合,当該障害の等級に応じて,後遺障害慰謝料や,労働能力喪失による逸失利益について,加害者に損害賠償請求をすることができます。
後遺障害の中には,その内容や程度等について,個別具体的な事実関係における認定・評価が容易でないものがいくつか存在します。今回は,そのうちの一つであるPTSD(〔心的〕外傷後ストレス障害)について紹介致します。
-PTSDとは,その診断方法は
PTSDは,死に匹敵するような外傷体験を経たために生じる強い精神的ストレスの結果,外傷時の苦痛の反復的な再体験(いわゆるフラッシュバック),回避行動,持続的な覚醒亢進状態(入眠,または睡眠維持の困難,いらだたしさまたは怒りの爆発,集中困難,過度の警戒心,過剰な驚愕反応等を言います)が継続し,社会生活や日常生活に支障をきたす後遺障害であり,外傷性神経症よりも重度の障害を伴う後遺障害として位置づけられます。
PTSDの判断にあたっては,アメリカ精神医学会の定めた診断基準であるDSM-Ⅳや,WHOの定めた診断基準であるICD-10を参考に,
①外傷的体験(自分又は他人が死亡ないし重傷を負うような外傷的な出来事を体験したこと)
②再体験(当該外傷的な出来事が継続的に再体験されていること)
③回避(当該外傷と関連した刺激を持続的に回避すること)
④覚醒亢進症状(持続的な覚醒亢進症状があること)
の要件を充たすかについて,構造化面接(アンケート形式などに見られる,予め決められた質問項目に沿って質問しながら行われる面接)診断等の結果を基に検討すべきとされています。
-PTSDの後遺障害等級
自賠責制度の運用においては,平成15年8月8日付厚生労働省労働基準局長通達による労災制度における認定の取扱いの変更に合わせて,自賠責保険においても,平成15年10月1日以降に発生した交通事故について,
・PTSD等の非器質性精神障害により日常生活において著しい支障が生じる場合(労災認定基準の表現では,就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの)は9級10号,
・日常生活において頻繁に支障が生じる場合(労災認定基準の表現では,多少の障害を残すもの)は12級13号,
・日常生活において時々支障が生じる場合(労災認定基準の表現では,軽微な障害を残すもの)は14級9号
にそれぞれ認定されるとされています。なお,重篤な症状が残存する場合には,7級以上の認定がなされる可能性もあります。
逸失利益算定の基礎となる労働能力喪失率については,一般には,自賠責制度で用いられている当該等級の労働能力喪失率表に従って労働能力喪失率が定められていますが,労働能力喪失期間については,就労可能な終期までとされる場合のほか,回復可能性を考慮して10年程度に制限される場合があります。