交通事故の事後の届出
■ポイント
1.交通事故の事後の届出も受理は可能。
2.単純に届出をするだけではなく、人身傷害の有無、診断書、車両損傷の有無、修理関連資料、事故関係者の氏名等の情報、届出を直ちにしなかった理由等をまとめて資料を持参すべき。
3.交通事故の事後届出は形式的には道路交通法第109条第1項第10号違反(3月以下の懲役又は5万円以下の罰金)に該当。
どのような事故でも、直ちに届出をしておくことが後々の手続のことを考えると重要。
第1 交通事故発生の届け出義務
交通事故が発生した際には、次の内容について報告義務が課せられています。
① 当該交通事故が発生した日時及び場所
② 当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度
③ 損壊した物及びその損壊の程度
④ 当該交通事故に係る車両等の積載物
⑤ 当該交通事故について講じた措置
しかし、事故が軽微であったり、事故当時は大したことはないと判断してその場を当事者限りの話で収めたり、急ぎの用事がある等の事情で、相手方と連絡先だけ交換をして別れたきり警察への届出をしないというケースも実際には存在します。
■関係条文
「道路交通法」
(交通事故の場合の措置)
第72条 交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
第2 交通事故の事後の届出
それでは、交通事故の事後の届出は全くできないのかというとそんなことはありません。
警察も事後の届出についてもきちっと受理をしてくれます。
しかし、事故発生から経過すればするほど、受理をする警察としても、本当に事故が発生したのかどうか見極めるために、受理には慎重にならざるを得ないのが警察の本音でしょう(特に人身事故の場合)。
そこで、事後届出をする場合には、その後の手続をスムーズに進めるためにも、可能な限り警察の内部受理基準に沿う内容の情報をまとめ、資料を準備し、持参する必要があると考えておくといいでしょう。
■内部受理基準(一例)
「交通事故捜査処理要領(概要)」(昭和47年9月27日発交指第465号〔警察本部長から各部・課・官・隊・校・署長あて〕)※各都道府県において公表されている交通事故の捜査処理に関する規定は異なりますが、石川県警察本部のHPで公表されている規定が詳しく、各地で細部は異なると思われるものの、参考情報として引用しています。
(後届事故の捜査)
第40 当事者が、道路交通法第72条第1項後段の措置をしないで、後日、人身事故として届出たときは、第4章および第5章ならびに本章各項の定めるところにより処理するものとし、受理するにあたっては、次の事項に留意しなければならない。
1 届出に係る交通事故により傷害を受けたものであるか。
2 交通事故の発生日時と、診断書記載の日付けに矛盾がないか。
3 車両は、届出に係る交通事故当時使用されていたものか。
4 当該車両の損傷の有無、あるとすればその部位、程度および修理の有無。
5 車両が、すでに修理されているときは、その修理先、またそれを証明する写真、書類があるか。
6 当該事故について、証言する者がいるか、いるとすればその者の住居、氏名、連絡方法および当事者との関係。
7 当該事故を、ただちに届出しなかった理由
したがって、後日に届出をする場合には、以上の1~7の情報をまとめ、資料を作成し、届出する際に持参すると、その後の手続を比較的スムーズに進めることができ、望ましいと考えます。
第3 報告義務違反の罰則
事後の届出も受理してもらえることはそのとおりですが、事後の届出は、形式的には交通事故の報告義務違反に該当し、法律上は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処される可能性がありうることについては注意が必要です。
■関係条文
「道路交通法」
第109条 次の各号のいずれかに該当する者は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。
1号から9号(省略)
10 第72条(交通事故の場合の措置)第1項後段に規定する報告をしなかった者
事故類型によって、届出することが非常に面倒だと感じることもあるとは思いますが、どのような事故でも、直ちに届出をしておくことが後々の手続のことを考えると大変重要になることはご認識いただくといいでしょう。
以上
(弁護士 武田雄司)