代車費用について

■ポイント


1.代車使用料については、①代車を使用する必要性、②使用する車種(グレード)、③代車の使用が認められる相当期間がそれぞれ問題となる。


2.①代車を使用する必要性については、通勤や業務上使用している場合や、病院への通院等日常生活上具体的に使用する必要性が認められる場合には、必要性が認められる傾向があり、通勤等に利用していたとしても、事故車以外にも、誰も使用していない車両を保有するような場合やバスや電車の公共の交通機関やタクシーの利用で十分代替できるという場合には、代車の必要性は否定される。


3.②使用する車種(グレード)については、使用する代車の種類(グレード)としては、代車を使用する必要性及び代車使用の目的との関係で、代替できるグレードの車種に限られる。


4.③代車の使用が認められる相当期間については、一般論としては、全損のため買い換える場合には買替えに通常必要な期間、修理可能な場合には修理するために必要な相当期間となるが、事情に応じて、見積りその他の交渉をするのに必要な期間も含まれると判断する裁判例も存在することから、交渉のために修理開始までの期間が長期にわたった場合でも、当該期間を代車の使用が認められる相当期間に含めることができるように、被害者としては、交渉の経緯等についても、しっかりと記録に残しておくことが重要になる。

 

第1 はじめに

 

交通事故に遭い、車両が損傷を受けた場合、修理費が賠償の範囲に含まれることの他に、修理期間中又は買替期間中、レンタカーの使用等により代車を使用した場合、代車使用料は損害として認められるでしょうか。

 

第2 裁判例等による考え方

 

1.一般論


一般論としては、「代車使用料は、もっぱら使用利益に対する補償」(平成15年3月12日/東京地方裁判所/判決/平成13年(ワ)1953号…等)であり、使用利益を有する者に対し、代車を使用する必要があると認められる場合に、相当な期間に限り認められるといえるでしょう。

 

それでは、代車を使用する必要性と相当な期間についてはどのように考えられているのか、裁判例を紹介しながら見ていきたいと思います。

 

2.代車を使用する必要性

 

それでは、代車を使用する必要性はどのような基準で認められるものでしょうか。

 

総じて見ると、通勤や業務上使用している場合や、病院への通院等日常生活上具体的に使用する必要性が認められる場合には、必要性が認められているといえるでしょう。

 

そのため、車愛好家として、専ら楽しみのためだけに乗用していたという場合には、必要性は認められない可能性が高いといえるでしょう(もっとも、「被告は被害車両を愛好し、マニアとして専ら楽しみのため同車両を乗用していたという以外、他に特段の具体的用途があったものとは認められないこと」と認定しながら、請求がなされているごくごく一部ではあるものの、代車の必要性を肯定した上で、代車使用料を認めた裁判例もあります〔昭和63年8月18日/神戸地方裁判所/第1民事部/判決/昭和60年(ワ)1906号等[判例時報1311号106頁]〕)。

 

また、通勤等に利用していたとしても、事故車以外にも、誰も使用していない車両を保有するような場合やバスや電車の公共の交通機関やタクシーの利用で十分代替できるという場合には、代車の必要性は否定されることになります。

 

2.1 必要性を否定した事例


平成5年4月15日/大阪高等裁判所/判決/平成4年(ネ)1038号等[交通事故民事裁判例集26巻2号303頁]


交通事故の被害者が、被害車両を使用して自宅から約30キロメートルの会社に通勤していたとしても、バスや電車の公共の交通機関やタクシーの利用では不十分であるとの主張、立証がなく、被害者宅には被害車両のほかに普通乗用車、軽トラック、原付自転車各1台を所有していることから、代車使用料相当の損害の主張は認められない

 

2.2 必要性を肯定した事例


■平成1年6月27日/横浜地方裁判所/判決/昭和63年(ワ)169号[交通事故民事裁判例集22巻3号727頁]


原告は川崎市内の水産会社に勤務し、その勤務の性質上早朝の通勤が必要であるため、通勤手段として乗用車を使用する必要があつたこと、同人は、本件事故発生の日から被害車の修理が完了するまでの間、昭和62年4月27日から同年5月29日までは横浜日産モーター株式会社よりレンタカーを1日6000円(1か月15万円)で、同年5月30日から同年6月24日までは同人の知人より普通乗用自動車(日産セドリック)を1日3000円でそれぞれ賃借して使用し、代車使用料として合計23万4000円の支出をしたことが認められ、右合計額は本件事故と相当因果関係のある代車料と認める。

 

■平成14年10月15日/東京地方裁判所/判決/平成13年(ワ)7442号等[交通事故民事裁判例集35巻5号1371頁]


・原告は、本件事故当時、中距離トラックの運転手として稼働しており、自宅のある千葉県松戸市から職場のある埼玉県三郷市まで、原告車両(キャデラック)を使用して通勤していたこと。

 

・原告方から最寄りの駅までは徒歩で15分以上かかり、また、勤務先から最寄りの駅までも徒歩で20分以上かかるため、自動車を使用しない場合には、通勤が大変不便であったこと。

 

・原告は、本件事故により、原告車両を修理工場に預けることになり、通勤の手段がなくなったため、平成12年6月11日から同年8月3日までの間、職場の友人を介してN氏から、メルセデスベンツSEを1日1万円で借り受けて、通勤に使用したこと。

 

・原告は、同年8月4日から同年9月10日までの間、K氏から、マツダ・センティアを同じく1日1万円で借り受け、通勤に使用したこと。

 

結論としては、必要性を認めた上で、相当な期間を1ヶ月半として40万円を認定した事例。

 

■平成19年11月29日/東京地方裁判所/判決/平成16年(ワ)3684号等[交通事故民事裁判例集40巻6号1543頁]


原告はA社への通勤及び同社の営業に原告車を使用していたことが認められることから、代車使用の必要性は認められる。

 

■平成21年1月30日/大阪高等裁判所/第3民事部/判決/平成20年(ネ)2108号[判例時報2049号30頁]


・控訴人が取締役(息子が代表取締役)を務める会社に、本件事故当時はBMW(数年前の年式のBMW750)と他の工事用車両(ライトバン)各一台を所有し、いずれも会社の営業用に使用していた。

 

・控訴人は、事故車以外に他の車両を所有しておらず、独り暮らしで日常生活等でも車両が必要であったため、会社からBMWを、1か月30万円(一か月未満は日割計算)の約定で賃借し、その後、控訴人が次の車両を入手できるまで賃借期間は延長されたこと。

 

・会社は、BMWを控訴人に賃貸している期間中、営業用にライトバンを使用し、別途営業用に他の車両を賃借するなどの手配はしなかったが、どうしても顧客等への対応などから高級車が必要なときには控訴人の長男の妻が所有するセダン車とライトバンを取り替えて使用していたこと。

 

・被控訴人が契約している任意保険会社は控訴人との間で、本件車両の代車費用として1日1万円くらいであれば控訴人に支払う旨の話をしていたこと。

 

以上の事情から、必要性は認められる。

 

■平成27年5月20日/東京高等裁判所/第17民事部/判決/平成26年(ネ)4475号[自保ジャーナル1953号127頁]


原告は、本件ボルボを、母親であり身体障害者である●●の病院への送迎に利用していたことが認められるから、同女の入院時期については不明瞭な部分が見受けられるものの、代車の必要性を否定することはできない。

 

3.使用する代車の種類(グレード)

 

使用する代車の種類(グレード)としては、代車を使用する必要性及び代車使用の目的との関係で、代替できるグレードの車種に限られることとなります。

 

これを超えるグレードの車種を代車として利用した場合には、相当因果関係が認められる損害としては、代替できるグレードの車種をレンタルしたことを前提として計算される使用料に限定されることになります。

 

■平成19年11月29日/東京地方裁判所/判決/平成16年(ワ)3684号等[交通事故民事裁判例集40巻6号1543頁]


原告はA社への通勤及び同社の営業に原告車を使用していたことが認められることから、代車使用の必要性は認められる。しかし、上記目的によれば、原告は、原告車を利用する以前はトヨタクラウンを営業のために使用していたことが認められることに照らすと、メルセデスベンツを代車として使用する必要性までは認められず、国産最高級車の限度で1日当たり1万5000円の代車費用を認めるのが相当である。

 

4.代車の使用が認められる相当期間

 

代車の使用が認められる相当期間としては、一般論としては、全損のため買い換える場合には買替えに通常必要な期間、修理可能な場合には修理するために必要な相当期間となります。

 

しかし、事故直後から早々に修理に取り掛かることができる事案もあれば、見積りの作成や、そもそも修理の必要性について交渉をすることも少なくなく、一定期間を要することはありうるところです。

 

個別の事情に応じて判断されるものではありますが、裁判例では、修理自体に要する期間のほか、事情に応じて見積りその他の交渉をするのに必要な期間も含まれると判断する裁判例も存在することから、交渉のために修理開始までの期間が長期にわたった場合でも、当該期間を代車の使用が認められる相当期間に含めることができるように、被害者としては、交渉の経緯等についても、しっかりと記録に残しておくことが重要になります。

 

■平成14年10月15日/東京地方裁判所/判決/平成13年(ワ)7442号等[交通事故民事裁判例集35巻5号1371頁]


代車使用料が認められるのは、本件のように被害車両が修理可能な場合には、相当な修理期間についてであるが、これには、修理自体に要する期間のほか、事情に応じて見積りその他の交渉をするのに必要な期間も含まれるものと解される(東京地裁平成一二年三月一五日判決・交民集三三巻二号五三五頁参照)。そして、被害者としては、修理費用の負担に関する保険会社の意向にかかわりなく、自らの判断で修理に着手することができるけれども、保険会社と修理工場との間で協定が成立してから修理が行われるのが一般的な慣行であることからすれば、保険会社が協定の締結を拒絶して修理費用を負担しないという態度を明確にするか、それ以前であっても合理的な検討期間が経過するまでの間は、被害者が自ら修理に着手しないとしても無理からぬものというべきである。本件においては、被告会社が偽装事故の疑いがあるとして損傷の整合性等を調査し、最終的に修理費用を負担しない態度を明確にしたものであるところ、証拠上、原告ないし修理工場と被告会社との交渉の経緯や被告会社の調査の経過は明らかではないが、少なくとも本件事故から1か月程度の間は、原告が交渉の推移等を見守り、自ら修理に着手しなかったとしても、やむを得ないものと考えられる。

 

■平成12年3月15日/東京地方裁判所/判決/平成10年(ワ)7818号[交通事故民事裁判例集33巻2号535頁]

 

一般的な社会通念からすれば、このような購入後間もない新車を何の落ち度もなく傷つけられた被害者が、損害賠償を巡る初期の交渉段階において、修理ではなく、一部の自己負担をしてでも買替えを強く希望するのはやむを得ないものというべきであり、このような場合、加害者、ことに交通事故処理を専門的かつ継続的に担当する損害保険会社の担当者は、被害者に対して合理的な損害賠償額の算定方法について十分かつ丁寧な説明をなし、被害者の理解を得るように真摯な努力を尽くすべきであって、そのために時間を要し、その結果、修理に着手する以前の交渉期間中の代車料が生じたとしても、それが、加害者(又は損害保険会社担当者)の具体的な説明内容や交渉経過から見て、通常予測し得る合理的な範囲内にとどまる限り、加害者(損害保険会社)はその代車料についても当然に負担すべき責任を負うものというべきであるところ、本件においては、前示各証拠からうかがえる原告とI氏との具体的な交渉経過及びその状況(両者の要求の食い違いの鮮明な対立状況やその背景となった互いの交渉態度に対する不満と不信感の存在)等を考慮すると、交渉期間中の代車の必要期間としては、少なくとも、8日間分を下回ることはないと認めるのが相当である。

 

第3 まとめ


代車使用料については、①代車を使用する必要性、②使用する車種(グレード)、③代車の使用が認められる相当期間がそれぞれ問題となります。

 

①代車を使用する必要性については、通勤や業務上使用している場合や、病院への通院等日常生活上具体的に使用する必要性が認められる場合には、必要性が認められる傾向があり、通勤等に利用していたとしても、事故車以外にも、誰も使用していない車両を保有するような場合やバスや電車の公共の交通機関やタクシーの利用で十分代替できるという場合には、代車の必要性は否定されることになります。

 

②使用する車種(グレード)については、使用する代車の種類(グレード)としては、代車を使用する必要性及び代車使用の目的との関係で、代替できるグレードの車種に限られます。

 

③代車の使用が認められる相当期間については、一般論としては、全損のため買い換える場合には買替えに通常必要な期間、修理可能な場合には修理するために必要な相当期間となりますが、事情に応じて、見積りその他の交渉をするのに必要な期間も含まれると判断する裁判例も存在することから、交渉のために修理開始までの期間が長期にわたった場合でも、当該期間を代車の使用が認められる相当期間に含めることができるように、被害者としては、交渉の経緯等についても、しっかりと記録に残しておくことが重要になります。

 

以上

(弁護士 武田雄司)