供述調書等の実況見分調書以外の刑事記録の取得方法

■ポイント


1.捜査期間中は取得できない。

 

2.刑事事件の進展状況(①刑事事件として被疑者が不起訴処分となった時点以降、②刑事事件として被疑者が起訴され判決が確定するまでの間、③判決が確定した以降の段階)によって請求根拠、請求先、請求主体が異なる。

 

3.①刑事事件として被疑者が不起訴処分となった時点以降でも、供述調書については、民事裁判を提起し、裁判所から文書送付嘱託等がなされた場合で、かつ、一定の厳格な要件をみたさない限り取得することはできない。なお、写真撮影報告書等客観的証拠については、実況見分調書と同様の基準で開示される(第2、2.1参照)。

 

4.②刑事事件として被疑者が起訴され判決が確定するまでの間は、実況見分調書と同様に、被害者等が事件が係属する裁判所において閲覧謄写請求を行うことで開示可能。もっとも、供述調書については、「相当ではない」として一部又は全部の開示が制限される可能性が実況見分調書と比較して高いと思われる(第2、2.2参照)。

 

5.③判決が確定した以降の段階では、供述調書が訴訟記録に含まれていることを前提として、原則として誰でも請求することができる。もっとも、供述調書については、「訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるとき」として一部又は全部の開示が制限される可能性が実況見分調書と比較して高いと思われる。申請する際は、事前に裁判を受けた者の氏名、罪名、各審級における判決日(及び確定日)を確認し、検察庁(第1審の裁判をした裁判所に対応する検察庁)へ申請する(第2、2.3参照)。

 

第1 はじめに

実況見分調書は開示されたものの、依然として事故状況に関する言い分が全く異なることや、実況見分調書では記載されていない内容について言い分が異なることもよく見受けられるところです。そこで、事故状況をより明らかにするために、刑事事件において作成された目撃者の供述調書や、加害者本人の供述調書等、実況見分調書以外の刑事記録の開示が必要になる場面があります。

 

以下、実況見分調書以外の刑事記録の取得方法・運用についてご説明します。

 

第2 供述調書等の実況見分調書以外の刑事記録の取得方法

 

1.申請可能時期

実況見分調書と同様に、刑事事件として、被疑者が起訴又は不起訴のいずれかの処分がなされた後でなければ申請をすることができません(そのため、警察での捜査中の段階では開示申請をすることができません。)。

 

2.申請時期に応じた開示請求の根拠と具体的請求方法

 

この点も、実況見分調書と同様であり、刑事事件の進展に応じて、①刑事事件として被疑者が不起訴処分となった時点以降、②刑事事件として被疑者が起訴され判決が確定するまでの間、③判決が確定した以降の段階に分かれますが、それぞれの段階で請求根拠が異なります。

 

2.1 ①不起訴処分となった時点以降

 

2.1.1 根拠規定等


刑事訴訟法第47条但書、平成20年11月19日付け法務省刑事局長通達(同年12月1日施行)

 

「不起訴記録については、刑事訴訟法47条により、非公開が原則とされるが、同条ただし書により、「公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない。」とされており、検察庁においては、従来から交通事故に関する実況見分調書等の証拠につき、当該事件に関連する民事訴訟の係属している裁判所からの送付嘱託や弁護士会からの照会に応じてきたところであるが、被害者等が民事訴訟等において被害回復のため損害賠償請求権その他の権利を行使するために必要と認められる場合には、捜査・公判に支障を生じたり、関係者のプライバシーを侵害しない範囲内で、被害者等からの請求でも客観的証拠で、かつ、代替性がなく、その証拠なくしては、立証が困難であるという事情が認められるものについて、これに応じるなど弾力的な運用を行っている。

 

ポイントは、開示対象が「客観的証拠で、かつ、代替性がなく、その証拠なくしては、立証が困難であるという事情が認められるもの」に限定されている点です。

 

そのため、実況見分調書以外の刑事記録中、例えば、写真撮影報告書等の客観証拠については、実況見分調書と同様の基準で開示を認める運用がなされていますが、供述調書は、そもそも「客観証拠」ではなく開示対象に含まれておらず、開示されません。

※写真撮影報告書等の客観的証拠の開示方法については「実況見分調書の取得方法」をご覧ください。

 

しかし、以下のとおり民事裁判を提起している場合に限り、例外的に開示されることがあります。

 

2.1.2 供述調書が例外的に開示される場合~民事裁判所から不起訴記録の文書送付嘱託等がなされた場合

 

次の要件をすべて満たす場合に限り、供述調書を開示する運用がなされています。

 

① 民事裁判所から、不起訴記録中の特定の者の供述調書について文書送付嘱託がなされた場合であること。

 

② 当該供述調書の内容が、当該民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものであって、かつ、その争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど、その証明に欠くことができない場合であること。

 

③ 供述者が死亡、所在不明、心身の故障若しくは深刻な記憶喪失等により、民事訴訟においてその供述を顕出することができない場合であること、又は当該供述調書の内容が供述者の民事裁判所における証言内容と実質的に相反する場合であること。

 

④ 当該供述調書を開示することによって、捜査・公判への具体的な支障又は関係者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく、かつ、関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるとは認められない場合であること。

 

2.1.3 目撃者の特定のための情報の提供について

 

また、次の要件をすべて満たす場合に限り、当該刑事事件の目撃者の特定に関する情報のうち、氏名及び連絡先を民事裁判所に回答するという運用がなされています。

 

① 民事裁判所から、目撃者の特定のための情報について調査の嘱託がなされた場合であること。

 

② 目撃者の証言が、当該民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものであって、かつ、その争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど、その証明に欠くことができない場合であること。

 

③ 目撃者の特定のための情報が、民事裁判所及び当事者に知られていないこと。

 

④ 目撃者の特定のための情報を開示することによって、捜査・公判への具体的な支障又は目撃者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく、かつ、関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがないと認められる場合であること。

 

2.2 ②刑事事件として被疑者が起訴され判決が確定するまでの間

 

2.2.1 根拠規定等

 

根拠規定については実況見分調書等の客観的証拠と同じであり、供述調書が除外されていることはありません。

 

犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(犯罪被害者保護法)第3条及び第4条

 

(被害者等による公判記録の閲覧及び謄写)

※「被害者等」…被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう(第2条)

第三条 刑事被告事件の係属する裁判所は、第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、当該被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせるものとする。

2項、3項 略

 

(同種余罪の被害者等による公判記録の閲覧及び謄写)

第四条 刑事被告事件の係属する裁判所は、第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、次に掲げる者から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、第一号又は第二号に掲げる者の損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合であって、犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせることができる。

一 被告人又は共犯により被告事件に係る犯罪行為と同様の態様で継続的に又は反復して行われたこれと同一又は同種の罪の犯罪行為の被害者

二 前号に掲げる者が死亡した場合又はその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹

三 第一号に掲げる者の法定代理人

四 前三号に掲げる者から委託を受けた弁護士

2項~4項 略

 

2.2.2 開示基準

 

・被害者等からの請求について


検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き開示がなされます。

 

制限される基準は抽象的ではありますが、「相当ではない」として閲覧・謄写が制限される要素としては、①関係者の名誉・プライバシー等にかかわる証拠の場合、②関連事件の捜査・公判に具体的な影響を及ぼす場合、③将来における刑事事件の捜査・公判の運営に支障を生ずるおそれがある場合が考えられ、特に供述調書については、実況見分調書等の客観的証拠と比較して、閲覧を認めず、又は当該部分にマスキングの措置を講ずる等の対応がなされる可能性は高くなるものと思われます。

 

・同種余罪の被害者等からの請求について

 

請求者の損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合であって、犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときに開示がなされます。

 

制限基準については、「被害者等からの請求」と同じです。

 

2.2.3 申請主体

 

3条:

事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士

 

4条:

① 被告人又は共犯により被告事件に係る犯罪行為と同様の態様で継続的に又は反復して行われたこれと同一又は同種の罪の犯罪行為の被害者

② ①に掲げる者が死亡した場合又はその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹

③ ①に掲げる者の法定代理人

④ ①~③に掲げる者から委託を受けた弁護士

 

2.2.4 申請方法

 

裁判が係属する裁判所において、申出人の氏名又は名称及び住所、閲覧又は謄写を求める訴訟記録を特定するに足りる事項等を記載した書面で申し出る必要があります(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する規則第2条~第4条)。

 

2.3 ③判決が確定した以降

 

2.3.1 根拠規定等

 

刑事確定訴訟記録法第4条、記録事務規程(最終改正:平成25年3月19日法務省刑総訓第6号〔同年4月1日施行〕)第17条

 

(保管記録の閲覧)

第四条 保管検察官は、請求があったときは、保管記録(刑事訴訟法第五十三条第一項の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。ただし、同条第一項ただし書に規定する事由がある場合は、この限りでない。

 

例外:

刑事訴訟法第53条1項但書

第五十三条 何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。

2項~4項 略

 

根拠規定については実況見分調書等の客観的証拠と同じであり、供述調書が除外されていることはありません。そのため、供述調書が訴訟記録に含まれていることを前提に、開示を請求することが可能です。

 

もっとも、供述調書については、開示が制限される「訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるとき」に該当する可能性は、実況見分調書と比較すると高くなるものと思われます。

 

2.3.2 申請主体

 

制限なし。

 

2.3.3 申請方法

 

事件を特定するため、裁判を受けた者の氏名、罪名、各審級における判決日(確定日)を確認しておき、保管記録閲覧請求書、謄写申出書を作成し、検察庁へ提出します。申請先は、検察庁(第1審の裁判をした裁判所に対応する検察庁〔刑事確定訴訟記録法第2条第1項〕)となります。

 

具体的な手続については、実況見分調書と同様に、被害者ホットラインを活用いただくといいでしょう。

 

以上

(弁護士 武田雄司)