傷害と事故との因果関係 -事故から一定期間経過後に受診した場合,事故から一定期間経過後に症状を発症し又は症状が悪化した場合-

交通事故の被害者の,事故によりケガを負ったことを理由とする加害者への損害賠償請求が認められるためには,そのケガが交通事故によって生じたこと,すなわち,傷害と交通事故との因果関係が必要となります。

 

ところが,被害者の方が,事故後一定期間経過後に病院を受診したり,病院を受診していても,診療録等の記録上,一定期間後に症状を発症している場合や,一定期間後に症状が悪化している場合には,事故との因果関係が否定される可能性が高くなります。

 

裁判例においては,

交通事故の約3週間後,1か月後に発現した頸椎捻挫,左肩打撲,右肩胛部挫傷及び腰部挫傷による症状につき,「前記四部位の症状が自動車の追突事故により生じうることは経験則上認められるところ,同人は,「徐々に違うところも痛くなった」,腰が「痛くてだるい」等と具体的な証言をしていることから,同人にこれらの症状が発症したことが推認される。同人による右肩胛部挫傷及び腰部挫傷の愁訴は,それぞれ本件事故の約三週間後,一か月後であるが,このことは,前記認定を覆すものではない。」として,事故との相当因果関係が肯定されたもの(神戸地判平成13・7・18交民34巻4号930頁)や,

 

・事故から10日後に頚部痛の増悪や左上肢のしびれの症状が発生し,3週間以上経過した後に腰痛が発生した事案について,「原告の受傷内容が頚椎捻挫である以上,これによる症状の出現の仕方等に個人差が生じることは,希なことではないし,原告は,平成22年5月,6月当時,勤務先が金融庁の検査を受け,その準備に追われる状況にあったというのであるから,頚部痛を抱え,頚部又はその周囲の筋肉が緊張している状況の中,業務に従事し続けることにより,頚部痛の増悪,左上肢のしびれや腰痛が出現するに至るということも,これを了解することが可能である。そして,これらの症状の発現等について,本件事故による受傷以外の他の原因の存在はうかがわれないから,本件事故後に原告に出現した各症状については,いずれも本件事故に起因するものと認めるのが相当である。」と判断したもの(東京地判平成25・8・6交民46巻4号1031号)

 

がありますが,診療録等の客観的な資料において,症状を訴えていることが認められないような場合は,やはり因果関係が否定される可能性が高くなりますので,交通事故に遭われた場合は,①できる限り速やかに病院を受診すること,②受診した際に存在している症状については,医師に漏らさずしっかりと伝えること,③事故後しばらく経って新たな症状が発生した場合には,すぐに病院を受診し,当該症状を訴えることが必要といえます。