加害者が事故発生の際にとるべき応急措置について
1 はじめに
不幸にも自動車事故を起こしてしまった場合,パニックになり,何をすべきかがわからなくなってしまうことがあるかもしれません。しかし,法律上,事故を起こしてしまった場合には,以下に述べる措置を取る義務があるとされており,落ち着いて対応する必要があります。
2 緊急措置義務
道路交通法は,交通事故により,人が死亡又は負傷し,あるいは物が壊れたときには,その当事者である運転者やその他の乗務員が直ちに取らなければならない措置を定めています(道路交通法(以下,「道交法」といいます。)72条1項前段)。
(1) 運転の停止および状況の確認義務
自動車の運転者やその他の乗務員は,自動車が何かに衝突したと感じられたときには,直ちに運転を停止して,事故の内容や程度,状況等を確かめ,人や物に対する被害の有無を確認しなければなりません。
(2) 負傷者の救護義務
「事故によって人が負傷した場合には,直ちに救護しなくてはなりません。これを怠ると,いわゆるひき逃げ(救護義務違反)となり,厳しく罰せられます。
裁判例では,たとえば,
①運転者が被害者の様子を見て,傷が軽いから救護の必要はないと軽率に判断してその場を立ち去った場合(最判昭和45年4月10日刑集24巻4号132頁)
②重傷の被害者を被害者の申し出に従って自宅に送り届けただけで,直ちに 医者に通報するなどの措置を取らなかったこと(札幌高判昭和41年10月6日高検速報昭和41年5号6頁)
③大丈夫かと被害者に声をかけて抱き起こし,通行人に救急車の手配を 依頼したが,救急車が到着する直前に現場から立ち去ったこと(東京高判昭和57年11月9日判タ489号128頁)
などが救護義務違反にあたると判断されています。
負傷者を救護せず放置し,あるいは負傷者を他の場所に運んで放置するな どの行為は,救護義務違反のほか,「保護責任者遺棄罪」(刑法218条)や,場合によっては「殺人罪」(刑法199条)に該当する可能性もあるため,事故を起こしてしまった場合は,速やかに十分な救護措置をとるようにご注意ください。
(3)道路における危険防止措置義務
救護義務を尽くした後は,引き続き交通事故が起こることを防ぐため,道路上の危険を除去しなければならないとされており,たとえば,事故車両や積荷等が道路上に放置されていて,交通に危険を及ぼしている場合には,速やかにこれらを他の場所に移動させなければなりません。ただし,これらの措置をとる場合には,後に事故現場の状況がわからなくならないよう配慮する必要があります。
3 事故報告義務
「事故を起こした自動車の運転者等は,前記の緊急措置義務のほかに,人の死傷または物の損壊を伴う事故について,警察官等に対し,直ちに事故を報 告する義務を負います(道交法72条1項後段)。
報告は,事故現場に警察官がいればその警察官に,そうでない場合には最寄りの警察署(交番や駐在所でもかまいません)の警察官に対してすることになります。報告は「直ちに」する必要があります。これは,事故発生後すぐに,または前述の緊急措置を行った後すぐに行わなければならないということで,一度自宅へ帰ったりまたは他の用事を先にすませたりした後では,「直ちに」報告したことにはならないとされています。
報告は,他人に依頼してすることもできますが,他人に依頼して報告する場合には,自らが直接報告したのと同様の負担を負うとされており,他人に警察への連絡を頼んだだけで,実際に連絡をしたかどうかを確認せずに現場から立ち去った場合(大阪高判昭和56年8月27日判タ452号172頁)は報告義務違反とされているため,注意が必要です。
報告する内容は次の5点とされています。
①事故が発生した日時および場所
②死傷者の数および負傷者の負傷の程度
③損壊した物および損壊の程度
④事故車両の積載物
⑤その事故について講じた措置
なお,報告をした運転者が,最寄りの警察署の警察官から,警察官が現場 に到着するまで現場を去ってはならないと命じられた場合には,これに従わなければなりません(道交法72条2項)。
4 保険会社への通知義務
自動車事故が発生した場合には,直ちに事故発生の日時,場所および概要を,自動車保険契約を締結している保険会社または取扱代理店に連絡しなければなりません。正当な理由がなくこれを怠った場合には,保険金の支払いが拒絶されてしまいます。
また,事故の状況,被害者の住所・氏名,事故発生の日時・場所,損害賠 償の請求を受けたときはその内容等を,遅滞なく書面で保険会社等に連絡しなければなりません。対人事故において保険会社が事故発生の日の翌日から60日以内にこの通知を受領しない場合には,その事故による損害に対して保険金が支払われないことがあります。