後遺障害:外貌醜状について

交通事故により,後遺障害を負った場合,当該障害の等級に応じて,後遺障害慰謝料や,労働能力喪失による逸失利益について,加害者に損害賠償請求をすることができます。

後遺障害の中には,その内容や程度等について,個別具体的な事実関係における認定・評価の在り方に議論があるものが存在します。今回は,そのうちの一つである外貌醜状について紹介致します。

-外貌醜状の意義及び後遺障害等級

頭部,顔面部,頚部など,上肢及び下肢以外の日常露出する部位に醜状痕が残った後遺障害です。

自賠責制度の運用においては,当初,女性が外貌に著しい醜状を残す場合に7級12号,外貌に醜状を残す場合には12級15号,男性が外貌に著しい醜状を残す場合には12級14号,外貌に醜状を残す場合には14級10号とされ,男女で差が設けられておりましたが,平成23年5月に自賠法施行令別表が改正されたことにより,平成22年6月10日以後に発生した自動車の運行による事故については,男女を問わず,外貌に著しい醜状を残すものは7級12号,外貌に相当程度の醜状を残すものは9級16号,外貌に醜状を残すものは12級14号とされるようになりました。

・「著しい醜状を残す」とは,①頭部については,手の平大(指の部分は含まない)以上の瘢痕または頭蓋骨の手の平大以上の欠損,②顔面部については,鶏卵大以上の瘢痕または10円硬貨大以上の組織陥没,③頸部に残った手の平大以上の瘢痕で,人目につく程度以上のものをいいます。

・「相当程度の醜状を残す」とは,顔面部に残った長さ5センチメートル以上の線状痕で,人目につく程度以上のものをいいます。

・「醜状を残す」とは,①頭部については,鶏卵大以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損,②顔面部については,10円硬貨以上の瘢痕または長さ3センチメートル以上の線状痕,③頸部については,鶏卵大以上の瘢痕で,人目につく程度以上のものをいいます。

-労働能力喪失率の認定

外貌醜状は,デスクワーク,荷物の搬送等の通常の労働にとって特段影響を及ぼさないことから,逸失利益は発生しないとも考えられますが,被害者が女性で芸能人,モデル,ホステス等の容姿が重視される職業に就いている場合や,男性でもアナウンサー,営業マン,ウエイター等のそれなりの容姿が必要とされる職業に就いている場合は,特に顔面に醜状痕が残ったことにより,ファンや店の客足が減る,勤務先の会社で営業職から内勤に配置転換となり昇進が遅れる,転職に支障を生じ職業選択の幅が狭まれられるなどの影響を及ぼすことが生じ得えます。

このように,労働に直接影響を及ぼすおそれのある場合には,自賠責制度の運用において用いられている当該等級の後遺障害等級表上の労働能力喪失率を参考として,被害者の職業,年齢,性別等も考慮したうえで,被害者の外貌醜状がその労働に与える影響を考慮して労働能力を決することになると考えられます。

また,醜状痕の存在による労働への直接的な影響は認め難いものの,周囲の視線が気になるなどして,対人関係や対外的な活動に消極的になるなど,間接的に労働に影響を及ぼすおそれが認められる場合には,後遺障害による慰謝料の増額事由としてしんしゃくされることも考えられます。その場合,慰謝料の増額は,100万円から200万円くらいの幅でなされることが多いとされています。