自賠責の重過失減額

自賠責保険は,自動車の運行によって人の生命や身体が害された場合の損害賠償を保険で保障する,被害者保護を第一の目的とする制度であり,自賠法に基づき契約締結が強制されています。そのため,被害者の損害賠償請求権を認める自賠法3条は,通常の損害賠償で,損害の公平な分担という理念の下に行われる過失相殺を行いません。

 

他方で,被害者側に重大な過失がある場合には,いわば故意に近いほどの大きな過失があるといえ,このような場合にも被害者の過失を一切考慮しないでよいのかということが問題になります。

 

この点については,自賠責保険は,加害者の被害者に対する賠償責任を保障するものであるため,①基本となる加害者の責任を定める際に被害者の過失を全く無視することはできないこと,②訴訟の場合,裁判所が自賠責保険金額の枠内で加害者の責任を確定したときは,たとえ保険金の枠が余っていても,裁判所の認定した額しか保険金としては支払われない,等の理由から,被害者保護と賠償責任保険本来の趣旨を考慮し,被害者の重過失の割合に従って,減額の対象としています。

 

すなわち,自賠責保険支払基準では,通常の過失相殺で問題となる過失割合が7割未満の場合は,自賠責保険では一切減額を行わないこととし,過失割合が7割以上である場合には,

・7割以上8割未満  死亡・後遺障害分:2割減額,傷害分:2割減額

・8割以上9割未満  死亡・後遺障害分:3割減額,傷害分:2割減額

・9割以上10割未満 死亡・後遺障害分:5割減額,傷害分:2割減額

という減額がなされることとなります。

 

被害者に7割以上の過失が認められる態様としては,たとえば以下のものが挙げられます(あくまで目安であり,個別事情や各種の修正要素により変動します)。

 

①被害者側に7割以上の過失

・歩行者の場合   赤信号横断

・車の場合     進路変更で後続直進車と衝突

・単車の場合   単車右折で対向直進車と衝突

②被害者側に8割以上の過失

・歩行者の場合  基本過失8割はなし(修正要素により8割以上となる場合あり)

・車の場合     赤信号直進で黄信号直進車と出合い頭の衝突

・単車の場合  交差点で左側車両を追い越して左折した際の左側車両との衝突

③被害者側に9割以上の過失

・歩行者の場合 基本過失9割はなし(修正要素により9割以上となる場合あり)

・車の場合    非優先道路から優先道路との交差点へ進入した際の事故

・単車の場合   基本過失9割はなし(修正要素により9割以上となる場合あり)