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オーストラリアビジネス法務(15)-Company Secretary(秘書役)とは-

弁護士 髙橋健

 

(本コラムでは、特段の断りがない限り、日系企業がオーストラリア進出の際によく用いる法人形態であるCompany Limited by shares(有限責任株式会社)で、かつProprietary company(非公開会社)を念頭においてお話します。)

 

 

1.Secretary-秘書役-とは

 

 

前回のコラムで、オーストラリア会社法第127条(1)(c)との関係で、Secretary(秘書役)に少し言及しましたが、今回は、この日本の会社法では馴染みのない秘書役に関して、その概要をみてみたいと思います。

 

 

秘書役とは、取締役とは別にオーストラリア会社法で認められている会社の機関で、主には会社の事務管理(例えば、会社のPrincipal place of business(主たる事業所)の住所を変更した場合に、それをASICに通知する業務(オーストラリア会社法第146条))を職務とした役職ですが、取締役とともに会社を代表してドキュメント(契約書を含む)に署名する権限を有していたりと、その職域は多岐にわたるといえます。

 

 

そして、オーストラリア会社法第188条(Responsibility of secretaries etc. for certain corporate contraventions)では、この秘書役の種々の責任が列挙されており、その責任の広範さ、重大さが見て取れます。

 

 

以下では、この秘書役の選任の要否と、選任する場合の選任方法を、簡単ではありますが見ていきます。

 

 

2.秘書役の選任の要否

 

 

オーストラリア会社法第204条(1)によれば、非公開会社は、秘書役の選任が要求されていませんので(他方で公開会社では1名以上の秘書役の選任が求められています。同条(2))、秘書役は会社の必須機関というわけではありません。

 

当職の拙いこれまでの経験に照らしても、日系企業がまずは小規模で非公開会社から始める場合、秘書役を置いていないケースのほうが多いように思われます。

 

 

オーストラリア会社法第204条(1)では、仮に非公開会社において、秘書役を選任する場合は、少なくとも1名は、オーストラリアに通常居住していなければならない(ordinarily reside in Australia)、とされています。

 

 

3.秘書役の選任方法

 

 

次に、秘書役を選任する場合の選任方法ですが、オーストラリア会社法第204条Dに定めがあり、それによれば取締役(取締役会)によって選任される、とされています(A secretary is to be appointed by the directors)。

 

オーストラリア会社法第201条Gで株主総会決議にて選任される(但し、replaceable rule)、とされている取締役とは、選任方法が異なります。

 

 

そして、秘書役の契約条件(報酬金(remuneration)を含む)についても、取締役(取締役会)で決定される、とされています(オーストラリア会社法第204条F)。但し、この規定は、replaceable ruleであるため、定款で異なる規定を置くことが可能と考えられます。

 

そのため、合弁契約の際に秘書役を設置する場合には、その契約条件につき、取締役(取締役会)以外の機関が決定する旨の規定を設けることも検討されます。

 

 

以上、秘書役の概要を簡単ではありますが、確認しました。

 

上記の通り、秘書役の職務やその責任は、比較的広範囲に及ぶといえますので、もし秘書役を設置する場合や、秘書役に就任する際には、注意が必要です。

 

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

 

【弁護士 髙橋 健】

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